俳句的生活(13)-お菊塚ー

平塚駅から徒歩3分のところに紅谷町公園という名の公園があり、こじんまりとした石碑が置かれています。お菊塚という名の碑、番町皿屋敷という怪談物の中で、主人の旗本青山播磨に手打ちにされたという女性の塚です。お菊さんの父親は、平塚宿で役人をしていた人物で、馬入の渡しで長持ち詰めにされた遺体を受け取ったとき、「あるほどの花投げ入れよすみれ草」という句を詠んだと言われています。明治になって夏目漱石が「あるほどの菊投げ入れよ棺の中」という句を作っていますが、それはこの馬入での句を連想させるものです。土葬されていたお菊さんの骨は、昭和27年に掘り出されて実家の菩提寺の方へ移されています。現在の碑は元あった場所に置かれているものです。一方、主人である青山播磨という旗本は、大正の初めに新歌舞伎の戯曲を書いた岡本綺堂による創作で、播磨の役職は火付け盗賊改めとなっているのですが、歴代の盗賊改めの頭のリストにその名は載っていません。また、屋敷が五番町であったということで、江戸の切絵図を調べてみたのですが、そのような旗本屋敷は記載されていませんでした。この怪談物は、もともと江戸時代にあった播州皿屋敷という歌舞伎を基にして作られたものです。現代人は、播磨という旗本は実在の人で、お菊さんが架空の人であると思い込んでいますが、実際は逆だったのでした。

番町の桜白亜の公使館 游々子

お菊塚

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