写真で見るプレバト俳句添削(44)-1月19日ー

今回のお題は ”おでん” です。

おでん

キスマイ横尾  ガード下シメのおでんはクミンの香

新橋ガード下

横尾さんは名人10段、前回星をひとつ落とし、星二つとなっています。

横尾さん: 星を落とすのはホンマにキツイ。その月は動けなかった。”おでん” からガード下を思い浮かべた。そこから色んな料理が、国同士コラボする。それでクミンの香と言えばカレーかな、それを分かってもらいたい。

ジュニアさん: これはいいですね。ミュージシャンらしいリズム。横尾くんは「香」好きやな。

横尾さんは過去に、「丸善の古書フェア檸檬ケーキの」「凍空の窓をゴンドラ紅茶の」という句を作っています。

夏井さん: この句の評価のポイントは、下五「クミンの香」を選択した是非です。

浜田さん: ひとつ前進! 先生から「新しい型への挑戦」

夏井さん: 型の問題から説明すると、二階堂さんがやっと学んでくれたような、”5音の季語+12音” の型がありますね。上五か下五かに季語が入るというそういう型なんです。この句は中七のところに、”おでん” という季語を入れてバランスをとって成立させている。これひとつ新しい型をマスターなさった、という証拠。”ガード下” で場所、”シメ” というので状況、”おでんが季語”、そして、”ガード下シメおでん” と言ったら、ほとんどの人は中年のオッチャン達がうだうだ飲んでいるみたいなそういう感じの光景を思い浮かべると思うんですが、最期に、”クミンの香” を持って来た瞬間に、空気が変わるというか、従来のおでんのイメージと違うものをポーンと持って来る。楽しみですね、これからも。

游々子: シメがクミンの香ということで、香も格別のものになっています。写真は新橋のガード下ですが、サラリーマンが昼間の憂さを晴らしている場所です。うだうだとではありますが、ペーソスがあるところで、あながち排斥すべきではないと思います。


千原ジュニア  おでん屋の一皿は先ず神棚へ

神棚

ジュニアさんは永世名人に王手を掛けています。

ジュニアさん: ここはホンマに行きたい! あ~嫌やな~ 開店と同時に入ったおでん屋さんが、2品ぐらいおでんを先ず神棚に置いていたんですよ。ここからおでん屋さんが始まるんやと。

梅沢さん: これは間違いなく行くんじゃないですか。これを詠めるんだったら永世名人になれますよ。大したもんだ。状況がはっきりしている。

夏井さん: この句の評価のポイントは、「の」「は」「へ」三つの助詞の是非です。そして清水さん、Bの方を渡してください。

アシスタント(清水さん): これはAとBで結果が違います。
浜田さん: 今のジュニアの説明を聞いて判断するという、、ひとつ前進! 千原ジュニア、永世名人!
アシスタント: 史上4人目の永世名人となりました!

浜田さん: 先生から「助詞オタクの集大成」

夏井さん: もうしっかり聞いておりました。問題はここなんですが、「一皿先ず」とやっても意味は通じます。でも敢えて「は」としてる訳です。これは何かと言うと「一皿を」と言ったら対象なので、おでん屋さん自身が持ってる皿を思う。でも「一皿は」と言ったらその一皿はどうするんだろうと、第三者として見てる、そんなニュアンスになるんです。ジュニアさんがすっと入って見たという第三者の視線を表現出来ているんです。「先ず」があるから間違いなくその日の最初の一皿っていうのがここで保証されます。そして最後の「へ」で神棚に供えますと、ここに方向と動きが出てくるでしょ。これが助詞オタクの集大成の意味なんです。しかも芸人さんは言葉を使って一歩一歩色んなことを覚えていく。ジュニアさんはその力の上に俳句を勉強して、こういう細やかなニュアンスまで使えるようになっている、素晴らしいですよね。

浜田さん: ジュニアさん真面目やからな。

ジュニアさん: 真面目やないんですよ。コンディショナーやってからシャンプーやるんやから。

梅沢さん: いいリズムですよね、ポンポンと。私のあとはこの二人が継いでくれる。心置きなく去っていきますよ。

游々子: 「は」と「を」についてですが、「を」が名詞につくと目的語になり、本句は「おでん屋の一皿を先ず神棚へ」となります。上五の「の」は主格を表す助詞で「は」あるいは「が」と同じ意味です。意味として「おでん屋が一皿を先ず神棚へ」となりますと、句の主役はおでん屋ということになり、ジュニアさんが注目した一皿ではなくなってきます。よってここは、「一皿は」でなければならないのです。「は」によって主役となる例は和歌にもあります。”夏は来ぬ” で作詞者佐々木信綱が本歌取りした元歌に、幕末の紀州藩士である加納諸平の歌「山里は卯の花垣のひまをあらみ忍び音もらす時鳥かな」

というのがありますが、ここで山里は、「は」によって、山里というところは、卯の花垣で時鳥が忍び音をもらす、そういうところだよ、と主役(主格)になっているのです。ともあれジュニアさんが永世名人になり、プレバト俳句もレベルが上がっていくことでしょう。


梅沢富美男  練り物の蓋持ち上げておでん鍋

おでん鍋

梅沢さんはあと一句の掲載で句集発行に王手を掛けています。

梅沢さん: これ皆さん経験ございません? 蓋をしておでん煮ていると練り物がこんなに大きくなる、ハンペンなんかいつの間に蓋を持ち上げるぐらいになる。

ジュニア: ”練り物” と ”おでん鍋” が離れているじゃないですか? 練り物の蓋? 持つところ竹輪?

浜田さん: 蓋からじゃないの、これ? 練り物からいくからおかしくなっている。

梅沢さん: また来週来ますかね?

ジュニア: まだ分かりませんから、分かりませんから。

浜田さん: ボツ! 先生から「また語順」

夏井さん: 光景は分かるんですけど、練り物から始まるこの語順が完全に失敗だと。

梅沢さん: 今気が付きました。

夏井さん: 今気が付いたと? ちょっと遅かったですね。読者の脳にありありと映像が浮かんでくると、そういう語順にしてあげるべきだと思います。ジュニアさんの指摘がひとつ当たっているのは、練り物とおでんの位置がこれだけ離れているから分かりにくくなっていると、これは仰る通りなんです。これは蓋からですよ。

添削 蓋持ち上げおでんの練り物は膨る

こうすると分かるようになりますが、分かったところで普通です。

浜田さん: 永世名人の句じゃないということですね。

夏井さん: はい。

梅沢さん: 夏ちゃん、最期のひと言は余分じゃねえか?

夏井さん: でもこういう俳句、よく見るんだもん私。こういう俳句、普通です。

梅沢さん: 2回言ったな。来週も来ますよ!

游々子: 梅沢さんは凡人並みのミスをしましたね。そして夏井さんの添削はまたまた破調。私なら五七五となるように語順を替えます。「おでん鍋の蓋を持ち上ぐ竹輪かな」と。食べ物を句材としたとき、それが美味しそうに思えるものにしないと、詩情は湧いて来ません。本句が感銘を与えない普通ものである理由はそこにあります。具材に着目するのであれば、横尾さんの「香」「色」でなければうまくいきません。私が俳句を始めて、最初の句会で投句したのは「色」に着目した「ゆで玉子おでんの色に染まりけり」というものでしたが、梅沢さんの本句より俳句的ではないかと思っています。