添削(44)ー厚木若鮎会(7) 令和5年2月ー

兼題: 梅、蕗の薹、当季雑詠

鍵渡裕子  

原句 枝振りをあしらいにして臥龍梅

臥龍梅

”臥龍梅” とは枝が横に伸び、広がる姿がまるで地を這う龍のようであることから、その名が付けられたものです。また、”あしらい” とは活け花に取り合わせる脇役の草木のことです。この句は、臥龍梅の一枝を、活け花のあしらいとして花器に盛ったということだと思いますが、それだと上五と下五の関係が不自然で、参考例のようにした方が分かり易いと思います。ただ、この句を字句通りに解釈すると、臥龍梅の枝をあしらいとして、一本の臥龍梅そのものが活け花仕立てのように見える、となります。解釈にやや無理がありますが、もしこのような見立てでの句であるとしたら、素晴らしい発見・着想であると言えます。

参考例 臥龍梅あしらいにして凛と立つ


原句 土手の上掛け声近し蕗の薹

”掛け声” とは子供の遊び声のことでしょうか。取り合わせの句では、季語以外の12音で季語を引き立てるように詠むことが、最大のコツであると言えます。蕗の薹に何を感じたのか、それは12音によって表現されます。もし蕗の薹に瑞々しい生命力を感じたなら、それにつり合う12音にすることが肝心です。

参考例 土手の児は十四、五人か蕗の薹


原句 阿夫利嶺や空より碧し冴え返る

この句は、上五を「や」で切り、続いて中七を「碧し」という終止形で切っているために、リズムに違和感が生じています。中句は「碧く」と連用形にして、季語の「冴え返る」に続けるのが良いでしょう。「阿夫利嶺や空より碧く冴え返る」

参考例 冴え返る山の向こうの山の嶺


鈴木紀子

原句 紅梅も待ち侘びたる寺の門

東慶寺

この句の問題点は、「も」という助詞です。紅梅以外にも待っているものがある、ということですが、待っているものが何なのかが不明です。紅梅は白梅のあとに開花する樹ですから、白梅に続いての開花を待っているものと想像出来ますが、「待ち侘びる」と複合動詞を使わなくても、その状況は表現出来ます。

参考例 尼寺や門の紅梅二輪ほど


原句 食わずとも苦み走った春の薹

蕗の薹が苦いことは周知のことですから、別の事を詠んだ方が良いでしょう。

参考例 蕗の薹盛らる九谷の絵皿かな


原句 桜餅丸ごと喰らう朝練後

食欲旺盛な子供の朝練後の景が詠まれています。

参考例 朝練の子を待つ桜餅三個


長田早苗

原句 菅公の社の梅の二輪ほど

北野天満宮

「菅公の社の」で9音使っていますので、短縮形を考えてみましょう。

参考例 梅まつり天神さんの出店かな


原句 行きどまり水の音して蕗のとう

水の音に生命力を感じたという取り合わせです。水と光に春の息吹を感じた、というのが参考例です。

参考例 水底に陽の差し込むや蕗の薹