添削(43)ーしおさい会 令和5年1月ー

兼題: クリスマス関連、足袋、当季雑詠

クリスマスツリー

木村友子

原句 子等遠く埃つもれる聖樹かな

佳句です。子供達が巣立ち、昔飾っていたクリスマスツリーも押し入れの中で埃がつもるようになってしまった、という句です。良い家族であった事が偲ばれます。直すところはありません。


原句 ノラたるや足袋をつぎつつ句を詠みて

杉田久女

この句は杉田久女の「足袋つぐやノラともならず教師妻」を下敷きにしたものです。久女は美術教師の妻となるのですが、夫の考えは古く、妻が俳句をやり度々外出するのを好んではいませんでした。「ノラ」とはノルウエーの劇作家イプセンによる戯曲「人形の家」のヒロインで、人形のように縛られることを拒絶し、家を出たという自立性ある女性のことです。この戯曲は明治末に日本でも上演され、夏目漱石や弟子たちは大きな衝撃を受けたのか、さかんに手紙で論じ合っています。久女は高浜虚子を師と仰ぎ、ホトトギスの同人であったのですが、虚子の支持は得られず、ホトトギスを除名されています。原句のように、「ノラ」「足袋をつぎ」と二つまで久女の句より持ってくると、如何にも近すぎるので、久女を破門した虚子に焦点を当てた方が、奥行きある句になるのではないかと、参考例としました。

参考例 足袋つぐや師も封建の人なりき


原句 冬牡丹乙女の項(うなじ)清らにて

項が「清ら」であるかどうかは、句を読む人に任せるべきことで、作者が「清らか」という形容詞を使ってそれを言ってはいけません。

参考例 冬牡丹白き項の乙女かな


溝呂木陽子

原句 クリスマス老いも華やぐプレゼント

いくつになっても、プレゼントを貰うのは嬉しいものです。プレゼントとして最も嬉しいものを想定して句にしてみては如何でしょうか。

参考例 嫁からの名入りのクリスマスケーキ


原句 白足袋や友と笑顔の待ち合わせ

白足袋

白足袋を履いているのが作者なのかお友達なのかが不明で、その分、待ち合わせ場面の映像が弱くなっています。待ち合わせ場所を明示して、これから二人で何をしようとしているのかを、読み手に想像させるようにするのが良いと思います。

参考例 白足袋の友の笑顔や銀座駅


原句 停電に右往左往の冬の夜

夜、停電になると右往左往するのは当り前のことです。想いをウクライナに巡らし、灯りの消えた街でも聖歌が歌われ、人々に希望を与えている神々しい情景を詠んでみては如何でしょうか。

参考例 送電の断たれし街の聖歌かな


溝呂木エム

原句 風静か湖畔をめぐるクリスマス

湖畔

クリスマスの日に、風静かな湖畔を廻ったという句ですが、映像性が弱いです。その原因は季語クリスマスが、湖畔の描写に寄与していないからです。湖畔に繋がる季語にして句を構成するのが良いでしょう。

参考例 風静か湖畔に灯る聖樹かな


原句 白足袋や寺院に向かう修行僧

中句の「向かう」が句を緩んだものにしています。僧の歩いている道を石畳として、白足袋と石畳の白を強調するのが良いと思います。

参考例 白足袋の僧や寺院の石畳


原句 満点に星のまたたき冬深し

満天とは空全体のことで、満点の星というフレーズがあります。満天の星がまたたいているのは当り前のことであるので、「またたき」は句に入れてはいけません。

参考例 満天の星に名を付く冬深し


伊藤美恵子

原句 古希となりテレビと過ごすクリスマス

古希となった年のクリスマス、それを愛でる内容にするのが良いでしょう。

参考例 古希となり君と言祝ぐ聖夜かな
    我ひとりワインで祝ふ聖夜かな


原句 白足袋やこころ引き締め初けいこ

「初けいこ」が新年の季語で、白足袋と重なっています。

参考例 白足袋や心の締まる稽古かな
    白足袋の十人揃ふ稽古かな


原句 水仙の細き首もと愛らしき

水仙

「愛らしき」は句の読み手が感じるべきことで、作者がそれを言ってはいけません。

参考例 水仙の首元細く伸びにけり