添削(41)-しおさい会 令和4年12月ー

兼題: 霜、水鳥、当季雑詠



増田知子

原句 霜月や冷気に包まれウォーキング

「霜」と「冷」が重なっています。また、中句が8音になっています。「霜月」で空気がひんやりしていることは表現されているので、そこに「冷気」を付け足す必要はないのです。映像が見えるようにしましょう。

参考例 霜月や烏帽子岩(えぼし)を目指す遊歩道


原句 水鳥や早く首出せ浅瀬狩り

中七が口語表現になっていて、俳句的ではありません。

参考例 水鳥の首や浅瀬の狩一閃


原句 いつのまに芽吹いていたり野水仙

野水仙が知らない間に芽吹いていたという、一種の発見を詠んだ句ですが、発見としては弱いです。その元凶は上五の「いつのまに」にあります。

参考例 野水仙芽吹いていたり昨夜(よべ)の雨

杉田ひとみ

原句 朝の霜拭くと体操負けられず

中七以下の意味が分かりません。霜柱の朝のリハビリとして参考例にします。

参考例 霜柱踏み出す一歩二本杖


原句 水鳥や帰るとこあり幸せよ

「幸せ」は作者の想いであって、それは読み手に委さなければなりません。中七の「帰る」が水鳥と繋がった動詞であるので、上五は「や」で切らない方が良いです。

参考例 水鳥の帰るとこあり木場の灯(ひ)よ


原句 セーターを編めよ編めよとせがむ嫁

情景は良く見えてきます。「編めよ」の繰り返しと「せがむ」はだぶっていますので、「せがむ」だけにして別のことを入れてみます。

参考例 セーターをせがむ若嫁はや五十路


杉山徹

原句 霜晴れや産声高し男児なり

中七を「高し」と終止形で切っておいて、更に下五でその産声が男児のものであると続けていますが、それならば、終止形ではなく連体形の「高き」で男児に繋げた方が良いでしょう。

参考例 産声の高き男児や霜晴るる


原句 水鳥や異国につづく茜空

空は異国に続いている、ということで、作者が何を言わんとしているかは、だいたい想像はつきますが、単に地理的なことだけを述べるのでなく、人文的な匂いを付ける方が、この場合は良いでしょう。

参考例 国境を知らぬ水鳥あかね雲


原句 冬の駅人待ち顔の若き群

中七の「人待ち顔」が映像として弱いです。鮮明な映像に変えてみます。

参考例 若人のスキーザックや新宿駅


渡辺美幸

原句 霜柱遊ぶ童は頬染めて

下五の着地は、染めるの連用形「染め」+ 助詞「て」となっていて、このあと更に何かに続く、という構成になっています。これは落ち着きが良くないので、名詞止めにした方が絶対に得です。

参考例 霜柱掴む童の紅き頬
    霜柱かち割る紅き頬の子ら


原句 水鳥の忙し親子の泳跡よ

水鳥の親子が連れ立って泳いでいる景を詠んだ句ですが、中句(8音になっています)の「忙し」が具体性のない表現になっています。なるたけ映像を伴わせるようにしましょう。

参考例 水鳥や親の水脈(みお)追ふ子の眼(まなこ)


原句 北斎は白波砕く冬の海

葛飾北斎の神奈川沖の浮世絵を詠んだ句です。絵を文字にしただけでは駄目で、絵で表現しきれていない何かを詠むのでなければ、俳句にする意味がありません。

参考例 渾身の波濤砕ける冬の海


松岡道代

原句 霜踏みてリズムを取れば大合唱

霜踏みの音が大合唱に聞こえるということでしょうか。霜踏みとリズムで「音」が出ているので、大合唱の代わりに、色彩になるものを加えて映像を強くしてみましょう。

参考例 霜踏みのリズム乱れぬ麦畑


原句 水鳥の羽毛まといし夢の中

水鳥の羽毛を纏うというのがどういうことか分かりません。自分が水鳥に抱卵されているという夢を見たとした参考例としました。

参考例 水鳥に抱卵されし夢一夜


原句 待ちわびて湯たんぽ冷める夜半かな

湯たんぽが自分のものか夫のものかが不明です。夫の布団に入れた湯たんぽが、夫の帰りを待っていると擬人化して参考例としました。

参考例 待ちわびし君の湯たんぽ夜半過ぐ