俳句講習会句集(4)-令和4年10月ー
俳ゆう会 兼題: 稲架、身にしむ、当季雑詠

1. 稲架掛けて合鴨肉の晩餐へ 杉山美代子
2. 稲架掛けて雀も少しご相伴 内海ただし
3. 秋高し訛り飛び交ふ道の駅 川島智子
4. 総帆の如く稲架立つ千枚田 瀧本万忘
5. 表札の褪せて幾度の秋彼岸 浜本文子
6. 身に入むや喧嘩相手の居ない夜 宮坂妙子
7. 空稲架に雀群れゐる潟の暮れ 和田しゅう子
8. 身に入むや野猫群れゐる城ヶ島 谷本清流
9. 旅宿の露天湯温し身に入みぬ 関口泰夫

10. 身に入むや家族写真に在りし夫 村上芳枝
11. 芥川の「鼻」の短編身に入みぬ 塚島豊光
12. 身に入むや公衆電話消ゆる街 野村宝生
13. 手際よく稲架組む父の腕太し 鈴木登志子
14. 和やかな母の寝顔のしむ身かな 粕谷説子
15. 身に入むやリハビリ室の夫の背 野村みつ子
16. 身に入むや朝餉の妻の独り言 海江田素粒子
17. 釣り糸に名月くずれ流れけり 松林游々子

18. キュッと分け稲干す子の手逞しき 渡辺洋子
19. 喜寿祝い締めて身に入む宴の後 鈴木煉石
20. 銀杏の実広がりて婆居らず 時松孝子
21. 秋晴や心も弾む今朝のバス 伊藤徳治
22. 身に入むや防災無線の人探し 山口薫
23. 身に入むや母の便りの二三行 白柳遠州
24. 晩鐘や銀杏そろって散る合図 豊田千恵子

25. 身に入むや終着駅の高天井 細貝介司
26. 露草の蕊のこぼれの二三本 清水呑舟
鑑賞(清水呑舟)
15. 身に入むやリハビリ室の夫の背
頑強な夫が病に倒れた。幸い病は順調に快復し、今はリハビリに励んでいる。病が癒えたら、また仕事に復帰する積りの夫は懸命にリハビリに取り組んでいる。それを見ているこちらも切ない気持ちになり、夫の背を押したくなってくる。
19. 喜寿祝い諦めて身に入る宴の後
職を退いて十余年が過ぎ、無事に喜寿を迎えることが出来た。今日は親子三代が揃ってお祝いの宴を開いてくれた。有難いことだ。人生百年時代、まだまだこの家族の為にも頑張らなければならない。明日からまた、気を引き締めて行こう。
20. 銀杏の実広がりて婆居らず
小出川沿いの散歩道には今年も銀杏が沢山落ちて散らばっている。毎年、この頃になるとお婆さんがやって来て、銀杏拾いに勤しんでいる。東京の孫に送ったり旦那さんの酒のおつまみにするのだそうだ。今年はまだ来てない様で、銀杏は散らばり放題、お婆さんの身に何かなければ良いのだが。
しんじゅ会 兼題: 新松子、暮の秋、当季雑詠

1. 古茶新茶旨み苦みの暮れの秋 小林梢
2. 暮の秋零余子御飯に妣の味 前原好子
3. 校長の一口話小鳥来る 坂口和代
4. 潮騒の匂ひまとふや新松子 大野昭彦
5. 蕎麦の花どどどと風に従へり 高田かもめ
6. 片減りの妣の駒下駄盆の月 伊藤あつ子
7. 新松子覚めよガイアの明け近し 長堀育甫
8. ささくれの尾瀬の木道暮の秋 三浦博美

9. 白蛇の祀る神社の新松子 能勢仲子
10. 引く波のささめく浜や暮の秋 山田潤子
11. 波が消す砂の記憶や暮の秋 西岡青波
12. 一湾を我が物とする新松子 夏目眞機
13. 湘南の風のはぐくむ新松子 高橋美代子
14. 新松子一つ一つの深呼吸 松田ます子
15. 新松子固きに詰まるエネルギー 吉住夕香
16. まだ伝へたきこと数多烏瓜 松尾みどり

17. 流れ星幾多流れて伊豆の宿 塚島豊光
18. また終ふ妣の名残りの秋袷 日高朝代
19. 同級の固き結束新松子 内藤和男
20. 新松子境内の静鋏おと 立脇静江
21. 人生は発展途上新松子 秋冨ちづ子
22. 鐘の音の吸い込まれゆく暮の秋 桐谷美千代
23. 海の色青から藍に暮の秋 島田美保子
24. 声はしゃぐ保育カートや新松子 小林清美
25. 新松子風も日射しも人も好き 目黒圭子
26. わずかずつ背骨の縮む暮の秋 渡辺ヤスエ
27. 風に乗る五山の鐘や暮の秋 味村京子
28. らいてふ碑へささめく万の新松子

(俳句的生活のブログ「平塚らいてう」はこちらより)
鑑賞(清水呑舟)
3. 校長の一口話小鳥来る
昭和時代の校長は威厳があり、生徒には近寄り難かった。今の校長は登校時には校門に立って生徒たちに挨拶するし、朝礼時には面白い話をして生徒たちを笑わせる。小鳥たちも来て校長の話を聞いているみたいだ。先生たちと生徒との垣根を取り除くことになり大変良いことである。
14. 新松子一つ一つの深呼吸
国道134号線沿いに茅ヶ崎海岸から馬入川まで防風砂林が延々と延びている。樹木のほとんどは松である。秋になると一斉に青松笠が実をつける。長い間茅ヶ崎を海からの風と砂から守って来た松林の後継者としてこれからも頑張って欲しい。それを承知してか万の新松子が大きく深呼吸しているようだ。
25. 新松子風も日射しも人も好き
茅ヶ崎サザンビーチ防風砂林の新松子は、相模湾からの風と陽光を浴びて揺れ交っている。また江ノ島まで延びているサイクリングロードを通る人たちも、新松子を見上げて微笑んでくれる。これらを力にして、新松子は茅ヶ崎の街を風と砂から守るという使命に向かって日夜頑張っている。
しおさい会 兼題: 新米、紅葉、当季雑詠

1. 丹精を込めた新米湯気香る 多田明子
2. 馥郁と香るジンジャー朝の凪 吉田和正
3. 新米やあれこれ迷ふ産地米 溝呂木陽子
4. 城跡の土塁残りし草の花 鈴木栄子
5. 草紅葉一陣の風谷抜ける M
6. 深空へといづこも紅葉照り返し 伊藤美恵子
7. 紅葉して少し華やぐ空家かな 平方順子
8. 神護寺にグラビア模する紅葉かな 木村友子

9. 新米を頬張る吾子の笑み溢る 島崎悦子
10. カラカラと走る一葉手の平に 福永いく子
11. 月山の紅葉震はす法螺の音 杉山美代子

12. 新米におかずの残る夕餉かな 室川俊雄
13. 空澄みて芒ゆらゆら深呼吸 渡辺美幸
14. 秋暮るる鐘の促す早仕舞ひ 伊藤あつ子
15. 実生育つ親となりけり庭紅葉 松林游々子

16. 離農てふ覚悟の揺らぐ今年米 日高朝代
17. 高雄渓夕映え染めて照紅葉 塚島豊光
18. 人文字の吾子すぐ判る空高し 西岡青波
19. 二尊院もみじ葉映す城の壁 板谷英愛

20. 母の忌や乱れし萩が窓に触れ 杉山徹
21. 新米の湯気の匂ひや母の香 松岡道代
22. 食卓の菊一輪が酒の友 岡山嘉秀
23. 咲く力咲き切る命草紅葉 清水呑舟
鑑賞(清水呑舟)
1. 丹精を込めた新米湯気香る
定年後始めた米作りは当初、失敗の連続であったが、年毎に改良を加え今年は最高の出来であった。羽釜で炊いた新米のご飯の湯気の香りが部屋中に広がる。米作りにチャレンジして本当に良かったと思う。来年も頑張ろう。参考:丹精を込めし新米湯気香る
12. 新米におかずの残る夕餉かな
新米の時期になると最近知り合いになった農家から米を送ってもらう。香り、艶、弾力共最高である。学制の頃、銀シャリにありついた時はおかずが要らず、漬物さえあれば良かったが、それと同じようにお菜が殆ど要らずいくらでも食べられる。日本人に生まれて本当に良かった。
16. 離農てふ覚悟の揺らぐ今年米
今年傘寿を迎えた。息子たちは都会に就職して家族を持っているため、後継ぎはいない。体力的にもそろそろ米作りを止めようと思っている。しかし今年の米の出来具合は最高であった。つい決心が鈍ってしまう。やっぱり来年まで作るとするか。
いそしぎ会 兼題: 十三夜、秋袷、当季雑詠

1. 同窓の喜寿の賑はい後の月 吉武千恵子
2. 秋袷大き目選ぶ小物入れ 大山凡也
3. 後の月老いし心に似るような 高橋久子
4. 想ふ事胸にたたんで後の月 佐々木紅花
5. お人柄裏地に見える秋袷 杉山若仙
6. 割烹の仲居のタトウー秋袷 大野昭彦
7. 父が着て温もり匂ふ秋袷 田部久二
8. 二人来てやがてひとりの十三夜 東花梨
9. 柿たわた水面の映ゆる駒寄川 坂西光漣

10. 紫の萩の花ふる海蔵寺 萩原照代
11. コンビニは無いけど見てよ星月夜 直林久美子
12. 窓開けむ妻の遺影へ十三夜 金井みゐみ
13. クラス会別れた駅の十三夜 小形好男
14. 名は無くも精一杯に草の花 吉住夕香
15. 鉄壁の橋脚仰ぐねこじゃらし 井澤絵美子
16. 千変の雲を従へ後の月 小倉元子
17. 帯きりり袷の無地の授賞式 和田行子
18. 温もりは母のお下がり秋袷 塚島豊光
19. 畳紙の妣の名薄れ秋袷 加藤久枝
20. 仲見世を抜け来る人の秋袷 井上瑞子
21. 蕎麦の花真綿敷くごと檜枝岐 吉川文代

22. 祖母母の縫子守かすか秋袷 小出玲子
23. 秋袷身体のネジを締めなほす 馬場行男
24. 秋袷稽古の励む日和かな 竹内仁美
25. 秋袷蹴出恥かし風に舞ふ 小林実夫
26. 秋袷母の香纏ふ古都一日 藤田真知子

27. さざめいて稽古帰りの秋袷 山岸旗江
28. 妻の役母の役終へ秋袷 清水呑舟
鑑賞 (清水呑舟)
1. 同窓の喜寿の賑わい後の月
高校を卒業して早や六十年が過ぎた。今日は久しぶりに級友が揃った。以前と比べて出席者は減ったが、みな元気だ。しかし話題は介護の事か自身の病気のことに集中する。みな元気のようで色々と苦労しているのだ。来年はこのうち何人がここに集まるだろうか。窓の外の十三夜が部屋の中を煌々と照らしている。
23. 秋袷身体のネジを締めなほす
コロナ禍は下火になったとは言え、まだ油断できない。店の売り上げはコロナ前と比べ半分以下となった。女将である私がしっかりしないとこの店はやっていけない。幸い身体はどこも悪いところは無い。今日も愛用の秋袷を着て、従業員の先頭に立って気合を入れて頑張って行こう。
26. 秋袷母の香纏ふ古都一日
母は秋の旅行になると、お気に入りの秋袷を着て何処にも楽しそうに出かけた。私も母に似て旅行が趣味である。年齢もその頃の母に近づいた。京都旅行は母遺愛の秋袷を着て出かけた。幽かに母の香の残る秋袷を着ていると、母と一緒に京都を巡っている気分になる。