添削(37)ーしおさい会 令和4年10月ー
板谷英愛様
原句 新米やこの一言で膳すすむ
新米のご飯は香りも良く、今年も秋が巡って来たなあと実感するものです。新米という言葉が夫婦の会話に上がった時、気分も晴れ晴れとなります。上五を「や」で切っていますが、中七が新米のことですので、切るのではなく、「の」で続ける方が良いでしょう。下五は体言止めにした方が、締まった句となります。
参考例 新米のこの一言ですすむ膳
原句 二尊院もみじ葉映す城の壁
「城の壁」とは、江戸時代に移築された伏見城の門のことでしょうか。二尊院は門を入った参道の両脇が紅葉並木となっていて、京都でも屈指の紅葉の名所となっています。その紅葉が門に映えているという句です。季語は、上五か下五に置いた方が強調されます。
参考例 紅葉葉を映す御門や二尊院
二尊院の総門 (二尊院HPより)
原句 ヤビツ道曲がりくねりの照葉かな
固有名詞を使うことの効用ですが、二尊院のように全国的に知られていて、読み手に或る種のイメージを与えるものは、適宜に使って効果あるものですが、ヤビツ峠や小出川のような全国の読者にイメージを持ってもらえないものは、避けた方が良いと思います。中七が説明的なゆるい表現になっています。
添削例 つづら折る如き山道照紅葉
岡山嘉秀様
原句 届いたよ新米嬉し妻の声
待っていた新米が配達された喜びが伝わってきます。上五に臨場感があります。中七の「嬉し」は別の表現をした方が良いでしょう。
参考例 「届いたよ新米」妻のはしゃぎ声
原句 紅葉道ひらりひらりと目の前を
紅葉の道を歩いていると、目の前に紅葉が散ってきたという句ですが、見えるのは目の前のものに決まっていますから、この下五は不要です。
参考例 紅葉散る顔にひらりと散歩道
原句 食卓の菊一輪が酒の友
この上五中七では、食卓の花びんに飾られた菊一輪と思ってしまいます。酒の友ですから、食用になった菊のはずで、美味しそうに詠んでみましょう。食用であるのなら、食卓は不要です。
参考例 菊の香や一期一会の酒の友
食用菊の酢の物 (楽天レシピより)
松岡道代様
原句 新米の湯気の匂いやははの香
新米を炊いた湯気の匂いから母を追想している句です。「母の香(こう)」がべたな表現です。優しかったお母さんの描写にウエイトを置いてみてはどうでしょうか。
参考例 新米や竈に火継ぐ母の背(せな)
原句 散りもみじ都を彩る紋様に
中七(八音になっています)と下五がぼやけた表現になっています。京都の散り紅葉の名所のどこかを持ってきた方が、「彩る」とか「紋様」というより、引き締まった句になります。
参考例 散り紅葉流る煉瓦の水路閣
原句 ほおずきの遊びを競いし幼き日
この句も中七が八音になっています。ほおずきを見て、ほおずき遊びをした幼き日を追想した句ですが、追想するのは幼き日であるのは当り前ですので、別のことを言った方が良いです。「遊び」も具体的に言った方が良いです。
参考例 ほおずきの風船揚げし二間の家(や)
(fumira.jpより)
渡辺美幸様
原句 ご馳走は新米の香にお味噌汁
確かに、新米に味噌汁の突き合わせは、どちらからも熱々の湯気の立つ最高のご馳走です。それがご馳走であることは判っていますので、「ご馳走」を除いて句を作ってみましょう。
参考例 味噌汁の香や熱々の今年米
原句 人波や紅葉の絨毯永観堂
永観堂へは、南禅寺で紅葉を堪能したあと、そぞろ歩きの人波が続きます。「絨毯」の代わりに、人波を詠んでみてはどうでしょうか。永観堂では6音になりますので、禅林寺とした方が、多少句が締まったものになります。
参考例 人波の目指す紅葉の禅林寺
永観堂の紅葉の絨毯
原句 空澄みてすすきゆらゆら深呼吸
「空澄む」と「すすき」が季重なりになっています。原句は、空が澄んでいて、芒がゆらゆらと揺れ、深呼吸したという、三つの要素を並べた五七五の文章句となっています。俳句では、構成要素は二つ以下にすべきです。本句では深呼吸をはぶくのが良いです。そうすると、澄んだ空と芒との対比となりますが、芒の句を詠む場合は常に蕪村の名句「山は暮れて野は黄昏の芒かな」を意識しなければいけません。蕪村のこの句の時刻は夕暮れであるので、時間を早めた句にしてみましょう。
参考例 真青なる空一面の芒かな