写真で見るプレバト俳句添削(28)ー7月14日ー

前半の出場者は、IKKO、伊集院光、高城れに、酒井藍の4人です。IKKOさんは、”住み込みの夜のケーキの苺かな” が、2021年の優秀句に選ばれ、冬麗戦に出場しています。今回の出場者はハイレベルで、4人のうち3人が才能有りとなりました。

伊集院さんは、前回初挑戦で才能有り1位。師匠の円楽さんからは、後にも先にもなく褒められたそうです。円楽さんは早く番組に出たいと、うずうずしていて、事務所のスタッフ全員から止められているとのことです。

原句 在りし夏選ばなかったフレイバー  伊集院光 才能有り2位 71点

フレーバー プレバト俳句添削

伊集院さん: あの夏、冒険していれば人生変わっていたかな。

村上さん: はっきりとフレーバーという具体的なものを持って来るから、そこに詩が生まれる。これが、”繋げなかったあの子の手” じゃ詰らないでしょ?

夏井さん: 俳句作ろうとしたらね、いろいろ書きたくなっちゃうわけですよ。それを敢えて書かないで想像させる、という俳句の骨法を押さえている句です。勿体ないのが、”在りし” という文語に、”選ばなかった” という口語がついていること。今話聞いていると、”あの夏” と言いましたね。

添削 あの夏の選ばなかったフレーバー

浜田さん: これだと師匠から呼び出しくることは無いでしょう。

伊集院さん: ただ、”お前、俺の席狙ってるんだろう” という話にはなると思います。

游々子: 夏井さんの、いろいろ想像させる、という論は間違っています。その理由は、下五のフレーバーを他の何に替えたとしても、夏井さんの、”それを書かないで想像させる” ということが成り立つからです。このことは、下五のフレーバーには何の価値もなく、ただ、なにを想像して良いのかわからないだけの、語句の組み合わせの五七五でしかありません。俳句界きっての売れっ子である夏井さんが、こんなことを言って、しかも俳句界から誰もが反論しないようであれば、再び、俳句は第二芸術でしかない、という声が起きてくることを懸念します。


原句 風呂上り火照るばあばとアイスの実  高城れに 最下位55点

フロ プレバト俳句添削

村上さん: 歳時記では、アイスは季語にならないことがほとんどだけど、それがどうなのか、風呂上りだと、”火照る” と言わなくても、火照ってるだろう。

夏井さん: これは素直です、素直に書いてますよ。勿体ないのはね、村上さんが言うように、風呂上りだと、大体火照ってる。

高城さん: そっか~

夏井さん: そうなのよ。そして、”アイスの実” 問題にもちょっと触っておきましょう。多くの歳時記には、季語として、「アイスクリーム」「氷菓」と掲載されている、この句の場合は「アイスの実」、商品名ですね。商品名も上手く使うと映像が見えてくる。食べたことがない爺さん婆さんは、アイスの実ってなんだと言うかも知れませんが、そういう人は放っておいてよいです。”火照る” の3音の代わりに、並列の型を使うと良いです。

添削 風呂上りばあばと私とアイスの実 

游々子: 原句中七の最後の字、”と” によって、アイスの実を食べているのは、”私” がばあばと一緒に、ということは想像できます。そのとき、”火照る” のは私ではなく、ばあばであるとも、読み手には十分に判読させています。私は、原句のほうが添削を上回っていると思います。添削のように、”私” を入れるのはしつこいだけです。


原句 稽古後のピノは星形星凉し  酒井藍 才能有り3位 70点

ピノ プレバト俳句添削

酒井藍さんは、2017年、史上最年少で吉本新喜劇の座長に就任した人です。プレバトには過去5回挑戦していて、才能有り1回、凡人1回、才能無し3回となっています。

酒井さん: 小藪兄さんがショボ過ぎたので、ショボ座長にならないように、才能有りを頂きたいです。

酒井さん: 稽古後に買ったピノを開けたら、何箱かに1個しか入ってない星形のピノが入ってて、その星形のピノを、夏の星空のもと食べるという句です。

夏井さん: 意図も意味もよく伝わりますね。ただ、更に上を目指すときの一つのアドバイスとして、俳句というのはですね、季語が主役になってほしい、そういうところがあるんですね。で、そうなったときに、星どおしのリズムも可愛いけど、星の位置をちょっと離すと、こっち(星涼し)の季語が主役になってくれると。そういう配慮も考えられるのです。

添削 星形のピノ稽古後の星涼し

稽古後の火照った体で星を見上げている、こうすると季語が主役となります。初めてでここまでやれたら上等ですよ!

酒井さん: なんか~ プレバト出てる~って感じです。
浜田さん: ちゃうちゃう!

游々子: 季語を主役に、ということですが、全ての俳句がその思想で創られたとしたら、つまらない世界になってしまうと思います。私はこの句の中心は、”稽古後” にあって、これを引き立たせるよう、季語を含めて組み立てるべきだと思っています。季語の ”星涼し” は付け足しであって良いのです。原句の問題個所は、中句の ”ピノは星形” が説明的であることで、私なら、稽古後を強調して、「稽古後の星形のピノ星涼し」と致します。


原句 髪結待つ客へ氷菓を出す母よ  IKKO 才能有り1位 71点

髪結 プレバト俳句添削

IKKOさん: まだクーラーのない時代ですよね、髪結するときにおかまのドライヤーに40分、団扇で扇ぎながら。そうすると母が、みぞれですよね昔の、カップに入ったのを出し、”ちょっとこれを食べて涼んでください” とした母のことを思い出して作りました。

夏井さん: よくこれだけのことを表現できたな、と、非常に効率の良い描写になっております。勿論このまんまでも構わないのですが、これ、もい1点プラスを狙うとすれば、美容室で氷菓を出すことに意外性があるので、後に持って来る方が印象が強くなります。

添削 氷菓出す母よ髪結待つ客へ

こうすると、映像が非常に滑らかになります。

浜田さん: 先生これ、伊集院とIKKOさんが71点で同じで、順位が違ったのは?

夏井さん: はい、どっちも作品としては71点レベルなんですけど、ま、とに角順位つけないと、そこら辺のヤツがうるさいので。理由ははっきりしています。季語をどこまで映像として見せているか、その映像の喚起力でやっぱりこっちに軍配を上げるしかない。

浜田さん: 伊集院さん、いいですか?
伊集院さん: はい~

游々子: 夏井さんの、効率のよい描写、という評価は、明らかに今までの、”書かない技” とは矛盾しています。IKKOさんの句には、{髪結、客、氷菓、母}が詰まっていて、一方、伊集院さんの句には、{夏、選、フレーバー}しかなく、しかもフレーバーは如何様のものであってよく、想像をするも困難なものです。俳句はよく想像させる芸術だとは言われますが、その範囲が自ずからわかるものでないと、支離滅裂になってしまう、と私は思います。