俳句的生活(175)-英国「ハイランド」地方ー

何ヶ月か前のことですが、NHKのラジオで、夏目漱石の「永日小品」の朗読を聴いたことがあります。元日の朝に虚子や門弟たちが漱石宅を訪れ、虚子の鼓で漱石が羽衣を謡ったというところから始まり、漱石の英国留学時の出来事が綴られています。”ピトロクリの谷は秋の真下にある” という一文で始まる「昔」という章では、漱石が煤煙のロンドンを抜け出して、ハイランドで疲れた神経を癒した時のことが書かれています。

ハイランドとはスコットランドの北半分で、南半分はローランドと呼ばれています。この二つの地域は、人種・文化が全く異なり、ローランドはイングランドに近く、アングロサクソン系ですが、ハイランドはケルト人のケール語が使われる地域です。漱石のハイランド旅行に先立つ30年前には、岩倉欧米使節団の一行が英国を訪問していて、岩倉を含む日本人4人が、駐日公使のパークスら3人の英国人の案内で、ピトロクリを3泊で訪れています。使節団の一員の久米という人が遺した「特命全権大使米欧回覧実記」では、パークスでさえケルト人の馭者の言葉が理解できず、大笑いになったことが記されています。

ハイランドで最も新しい記憶は、2014~2015年にかけて放映されたNHKの朝ドラ「マッサン」です。これは竹鶴政孝という広島の造り酒屋の息子が、大阪大学で醸造学を学んだのち、ハイランドのウイスキー蒸留所で実習を重ね、日本で初のシングルモルトの本格ウイスキーを作り、北海道の余市にニッカを創業した物語です。奥さんのリサ役を演じたシャーロット・ケイトという女優さんの、長い日本語で演技していたのが印象的でした。スモーキー・フレーバーという言葉を知ったのもこのドラマからでした。

茅ヶ崎駅南口に、”角打ち” をやってくれる酒屋があります。つちや酒店という、30分の限定で、用意されている店の酒を、少量づつ飲めるところがあります。今度の句会の帰りにでも、パブに立ち寄る気分で、一杯(one shot)やってこようと思っています。

牧童や秋の真下のバグパイプ  游々子

ピトロクリの街並み
ピトロクリの街並み
Pitlochry(ピトロッホリー) : オランダ暮らしブログ (exblog.jp)より