鬼を狩る子孫 第十話 大山詣り(12)
橋の下――残された小さな痕
大曲橋の欄干を背に、
悠夜たちは、
橋の下へ降りる細道を進んだ。
昼間でも、
ここは少し薄暗い。
街道の音は、
頭上で反響するだけで、
直接は届いてこない。
小出川は、
静かに流れていた。
水面に浮かぶ光が、
護岸の影を揺らしている。
「足元、気ぃつけや」
嵐山が言う。
石の間に、
湿った泥が溜まり、
ところどころ滑りやすい。

悠夜は、
川岸に近い場所で足を止めた。
「……先生」
声が、
少し低くなる。
「ここ、
人が座ってた跡があります」
護岸の根元、
コンクリートが少し欠けた陰。
草が踏み倒され、
土が、
不自然に平らになっている。
「確かに……」
真衣が、
しゃがみ込んだ。
「一回じゃない。
何度か、
ここに座ってる」
蓮は、
周囲を見回している。
「隠れるなら、
ちょうどいいですね」
橋脚が視界を遮り、
街道からは見えない。
だが、
水音と車の気配は、
常に伝わってくる。
「完全に孤立しとらん」
嵐山が、
静かに言った。
「人の気配を感じながら、
身を潜められる場所や」
悠夜は、
足元に落ちているものに気づいた。
「……これ」
拾い上げたのは、
小さな菓子の包み紙だった。
色あせているが、
まだ形は保っている。
「……新しいな」
嵐山が言う。
「ここ最近のもんや」
真衣が、
包み紙の端を見つめる。
「子供……ですよね」
誰も、
否定しなかった。
さらに、
少し離れた石の上に、
別の痕跡があった。
濡れた地面に、
かすかに残る足跡。
大人のものより、
明らかに小さい。
「……あった。」
蓮が、
短く言った。
それだけで、
十分だった。
悠夜の胸の奥で、
これまで仮説だったものが、
重さを持って沈み込む。
SOSは、
誰かの想像ではない。
ここで、
確かに発せられたものだ。
「いつ頃や」
嵐山が、
周囲を見ながら言う。
「長くはない。
せやけど、
一度きりでもない」
草の倒れ方。
土の乾き具合。
ゴミの状態。
「何日か、
ここを使っとる」
悠夜は、
橋の上を見上げた。
車が通り過ぎ、
誰も、
下を覗かない。
それでも、
人の流れは、
確かに感じられる。
「……だから、
印を残した」
悠夜は、
自分に言い聞かせるように
つぶやいた。
ここからは、
動けない。
けれど、
助けを呼びたい。
「山へ向かう人なら、
気づいてくれると思った」
嵐山は、
ゆっくり頷いた。
「せやな」
そして、
少しだけ声を低くする。
「ここから先は、
慎重に行こ」
悠夜は、
足元の平らになった場所を、
もう一度見た。
そこは、
一時的な避難場所ではなく、
誰かが
“ここで生き延びようとした”
場所だった。
――まだ、
本人は見つかっていない。
だが、
足跡は、
確実に次へ続いている。
調査は、
いよいよ
捜索へと
姿を変え始めていた。


