鬼を狩る子孫 第十話 大山詣り(11)

大曲橋

大山街道を進むと、
道はわずかに下り、
視界が開けた。

 橋だ。

 石とコンクリートが混じった、
古さと新しさの境目のような橋が、
小出川を跨いでいる。

「大曲橋や」

 嵐山が言った。

 橋の上に立つと、
街道の流れが、
一瞬だけ緩む。

 車も人も、
速度を落とすが、
誰も立ち止まらない。

 川は、
思ったよりも低い位置を流れていた。

 水音は控えめで、
注意しなければ気づかない。

「……でも」

 真衣が、
欄干の下を覗き込む。

「下は、
 ちゃんと見える」

 橋の両側には、
護岸へ降りる細い道があり、
草に隠れるように続いている。

 人の目から外れ、
それでいて、
完全には閉じていない。

 悠夜は、
胸の奥がざわつくのを感じた。

「条件が、
 全部そろってる」

 思わず、
そう口にしていた。

 嵐山は、
橋の向こう岸を指した。

「この川な」

 少し間を置いて、
続ける。

「律令の時代には、
 相模國高座郡の郡衙が
 この辺りにあった」

 蓮が目を丸くする。

「え……
 こんな所に?」

「そうや」

 嵐山は頷いた。

「船溜まりもあってな。
 相模の中央部じゃ、
 水運の要やった」

創作小説の挿絵
小出川の船溜まり跡

 街道。
 川。
 船。

 人と物が、
必ず交わる場所。

「つまり」

 悠夜は、
橋の下に視線を落とした。

「昔から、
 “集まる場所” だった」

「せや」

 嵐山の声は、
静かだった。

「せやけどな、
 集まるいうことは、
 境目でもある」

 橋の上と下。
 道と水。
 行く者と、
 留まる者。

「河童の話も、
 この辺りや」

 その言葉に、
蓮がぴくりと反応した。

「……河童?」

「水の境に現れて、
 人を引き込む」

 嵐山は、
淡々と言う。

「せやけど、
 悪さだけするもんでもない」

 助ける話もある。
 守る話もある。

「子供の話が、
 多いんですよね」

 真衣が言った。

 嵐山は、
否定しなかった。

 悠夜は、
橋の下へ降りる細道を見た。

 草に隠れ、
街道からは見えにくい。

 だが、
水音は聞こえる。

 人の気配も、
完全には消えない。

「……ここだ」

 誰に言うでもなく、
悠夜はつぶやいた。

 嵐山は、
すぐには答えなかった。

 しばらく、
川の流れを見つめてから、
ゆっくり頷く。

「可能性は、
 一番高い」

 橋の上では、
車が通り過ぎていく。

 誰も、
下を見ない。

 けれど、
確かにここは、
人の流れの中にある。

 悠夜は思った。

 助けを求める声は、
山に向かう人に託され、
この橋の下で、
息を潜めていたのではないか。

 ――まだ、
 見つかっていない。

 だが、
場所は、
もう逃げない。

 小出川の水は、
何事もなかったかのように、
静かに流れ続けていた。