鬼を狩る子孫 第十話 大山詣り(13)

水の影――見つかった声

小出川の上流へ向かうにつれ、
川幅は、わずかに狭くなっていった。

 護岸は低くなり、
人の手があまり入っていない場所が増える。

「この先や」

 嵐山が、
短く言った。

 理由は説明しない。
全員が、
同じ感触を持っていた。

 川が、
ゆるく蛇行している。

 その内側、
土がえぐられ、
背の低い藪に囲まれた場所があった。

 街道からは見えない。
だが、
水音だけは、
はっきり届く。

「……待って」

 真衣が、
手を上げた。

 その瞬間だった。

 ――がさ。

 藪の奥で、
何かが動く音。

 悠夜は、
反射的に声を張った。

「大丈夫だ!」

 返事はない。

 だが、
気配は消えなかった。

 嵐山が、
一歩前に出る。

「もう、
 逃げんでええ」

 声は、
驚くほど低く、
落ち着いていた。

「誰も、
 責めへん」

 数秒の沈黙。

 そして――

「……だれ?」

 かすれた声が、
藪の奥から聞こえた。

 子供の声だった。

 悠夜は、
ゆっくりと膝を落とした。

「通りすがりだ。
 君が出した印を、
 見つけた」

 藪が、
わずかに揺れる。

 細い腕が、
枝を押しのけた。

 泥で汚れた服。
 震える肩。
 だが、
 目は、はっきりこちらを見ている。

「……ほんとに?」

「ほんとだ」

 蓮が、
一歩横に出て言った。

「嘘つく理由、
 ないだろ」

 子供は、
しばらく三人を見比べてから、
力が抜けたように、
その場に座り込んだ。

「……よかった」

 それだけ言って、
顔を伏せる。

 嵐山は、
距離を保ったまま言った。

創作小説の挿絵

「名前、
 言えるか」

 小さく、
頷きが返る。

「……**」

 悠夜は、
胸の奥で息を吐いた。

 生きている。
 怪我はない。
 だが、
 限界は近い。

「もう、
 ここにいなくていい」

 悠夜は、
はっきり言った。

「帰ろう」

 子供は、
初めて涙をこぼした。

 小出川は、
何事もなかったように流れている。

 蛇のように、
曲がりながら。

 だが今、
その水辺に隠れていた
SOSの主は、
確かに見つかった。

 偶然ではない。

 人の流れに託された声が、
届くべき相手に、
ようやく届いただけだ。

 ――これで、
 現実の事件は終わる。

 だが、
悠夜はまだ知らない。

 この構図が、
はるか昔の物語と
重なっていることを。