鬼を狩る子孫 第三話 新任校長の履歴書(2)
鎌倉の少年たち
由比ガ浜から吹き寄せる潮風は、どこか甘い香りを含んでいた。初夏の陽射しを浴びて白くきらめく波が、寄せては返す。砂浜を駆ける子どもたちの笑い声が遠くから聞こえ、観光客の姿もちらほらと混じる。その海の町を背に、悠夜、蓮、大地の三人はいつもの通学路を歩いていた。
鎌倉の町は、歴史の重みと現代の喧騒とが不思議に調和している。大路には古刹の石垣や苔むした石段が残り、小路には古い商家と新しいカフェが肩を並べる。観光客がスマートフォンを掲げて記念写真を撮る横を、自転車に乗った高校生がすれ違い、さらに地元の主婦が買い物袋を抱えて歩いていく。過去と現在が入り混じる風景の中を、三人の少年たちは元気な声を響かせながら進んでいった。
-1.png)
「なあ悠夜、今日の新任校長ってどんな人なんだろな」
大地がランドセルを揺らしながら、声を弾ませる。
「新聞には、ハーバード出身のエリートって載ってたよ」
蓮が得意げに答え、胸ポケットから小さな手帳を取り出してぱらぱらとめくった。
「でもさ、あまりに経歴が立派すぎるんだよな。どこか胡散臭い気がしない?」
悠夜は笑みを浮かべて肩をすくめた。
「まあ、会ってみなきゃわからないさ。でも、俺たちの学校にとっては大きな変化になるのは確かだ」
三人は橋の上で立ち止まり、川面にきらめく光を見下ろした。鯉が群れをなし、悠然と泳いでいる。川沿いの歩道では、早朝のジョギングをする大学生らしき姿も見えた。観光客の一団がすれ違い、英語や中国語の声が風に混じっていく。鎌倉という町は、古いものと新しいものが常に交わり、絶えず変化している。その中で育つ彼らもまた、時に大人びた思考をし、時に子どものように夢中になって遊ぶ。
圧縮).png)
「そういえば、一週間前に行ったあの坑道さ……」
大地が声をひそめ、仲間を振り返った。
「まだ気になってるのか?」
蓮がすぐに察して眉をひそめる。
「だってさ、あれだけ封鎖されてるのに、奥には何か残ってる気がするんだよ。足跡もあったし……」
悠夜は少しだけ真剣な顔になり、うなずいた。
「確かに、まだ何か隠されてるような気がする。俺たちが確かめなきゃならないんだ」
その言葉に、蓮も大地も黙って頷いた。三人の笑顔と真剣さが入り混じる会話は、潮風に乗って鎌倉の町並みに溶けていった。古都の空気に包まれながら、彼らの冒険は再び動き出そうとしていた。


-200x300.png)