鬼を狩る子孫 第一話 見えない請求書(22)

(22)

黒い影が膨張し、教室を丸ごと飲み込もうとしていた。
机も椅子も軋み、窓ガラスは震えて、今にも砕け散りそうだ。

「払え……払え……! おまえたちの心を差し出せ!」
鬼の声が耳をつんざく。

蓮は歯を食いしばり、両手を口に当てて叫んだ。
「オレの大事なもんは――友だちだ! 悠夜だ! だからお前なんかに渡さねぇ!」

その声は、光となって勾玉へと飛び込む。

続けてクラスの子どもたちも叫んだ。
「わたしは家族!」
「オレは絵を描くこと!」
「わたしはピアノ!」

心から絞り出された言葉が次々に光となり、勾玉の中心で渦を巻く。
その輝きは黒い影を押し返し、竹内先生の体を縛る鎖を一つずつ断ち切っていった。

悠夜は勾玉を高く掲げた。
「勾玉は独りの力では完成せぬ。人の心に宿る光を糧としてこそ、真の守りとなる!」

その瞬間、勾玉は爆発するような白光を放つ。
光は教室全体を満たし、鬼の影を焼き尽くすように広がっていった。

「ぐ……うおおおおお……!」
鬼の絶叫とともに、影は霧となり、やがて跡形もなく消え去った。

静寂。
残されたのは、床に崩れ落ちた竹内先生と、まだ光を宿す勾玉だけだった。

創作小説の挿絵

蓮が息を切らしながら笑った。
「やった……のか?」

悠夜は頷き、先生の肩に手を置いた。
竹内先生の呼吸は浅いが確かにあり、顔には苦しみの色が薄らいでいた。

「……ありがとう……君たちのおかげで……」
弱々しい声で、先生はそうつぶやいた。

その時、勾玉の光がふっと和らぎ、温かな余韻だけを残して静かに沈んだ。
まるで「支払い」は終わったのだと告げるかのように。