鬼を狩る子孫 第一話 見えない請求書(21)
(21)
教室の空気が、急に冷え込んだ。
窓も扉も閉まっているはずなのに、白い霧が足元から忍び込む。
竹内先生は黒板の前で立ち尽くしていた。
その顔は蒼白で、瞳の奥がどこか別の色に揺れている。
――《払え……払え……まだ終わってはおらぬ》
低い声が、先生の喉を通して響き出す。
声は明らかに竹内先生のものではなかった。
「……支払いだ……足りぬ……おまえたちの心を差し出せ……」
先生の背後に、巨大な影が伸び上がる。
それは教室の天井に届くほどの黒い鬼の姿。
半透明のその体は、まるで竹内先生自身を操る糸のように絡みついていた。
蓮が思わず叫ぶ。
「やばい! 先生が完全に喰われるぞ!」
悠夜は勾玉を強く握りしめた。
その表面はかすかに温かく、心臓の鼓動に合わせて脈打っている。
「みんな! 先生を助けるんだ! 勾玉は人の心に応えるって、俺たちは知ってるはずだ!」

クラスの子どもたちは互いに顔を見合わせる。
怖さで震えながらも、一人、また一人と声をあげた。
「先生、数学おしえてくれてありがとう!」
「わたし、黒板に答え書いたとき、ほめてくれたよね!」
「先生、サッカーの試合、見に来てくれただろ!」
その言葉のひとつひとつが、小さな光となって宙に舞い、勾玉へと吸い込まれていく。
勾玉は白銀の輝きを増し、鬼の影へと光の矢を放った。
「ぐああああああッ!」
鬼の叫びが教室を揺らす。
竹内先生の体ががくりと崩れ落ち、影がその上でのたうち回る。
――《まだだ……まだ払わせる……!》
黒い影は最後の力を振り絞り、教室全体を覆おうと膨れ上がった。
悠夜は歯を食いしばった。
「これは……本当に最後の勝負だ!」


