鬼を狩る子孫 第一話 見えない請求書(7)

(7)
勾玉を継いでからというもの、悠夜の眼にはこれまで見えなかったものが映るようになった。
 夜更け、村を覆う白霧の中に、かすかな影が浮かんでは消える。人の形をしているが、輪郭は曖昧で、風と共に溶けていく。

 ――これが祖母の語っていた「霧の客(まろうど)」か。
 村の人々が恐れ、祠に供え物を欠かさぬのも、この影を鎮めるためであったのだ。

 ある夜、悠夜は江戸時代にタイムスリップした夢を見た。悠夜が村の辻を歩いていると、年老いた庄屋が近づいてきた。
「悠夜様……祠にお籠りなさったと聞きました。もしや、勾玉を……」

 その声音には、敬意と同時におそれが混じっていた。
 村人にとって「霧の守人」は頼りでありながら、同時に近寄りがたい存在だった。霧を操る者は人ならぬ力を宿すとされ、時に畏敬を、時に畏怖を集めてきたからだ。

 悠夜は静かに答えた。
「勾玉は、確かに私が受け継ぎました。しかし、それは私ひとりのためではありません。村を守り、皆の安寧のために」

 庄屋は深々と頭を下げた。その背後で、集まっていた村人たちも口々に祈るような声を上げる。

創作小説の挿絵

 翌日、悠夜は祠の前に座して勾玉を握った。
 すると、霧の中から再び影が現れた。今度はひとつやふたつではなく、いくつもの影が蠢いている。
 その中に、亡き父の姿を思わせる影を見た気がした。

 勾玉が淡い光を帯び、影たちは次第に静まっていく。霧が晴れるように、影はひとつ、またひとつと消え去った。

 ――これが、勾玉の力。
 霧に潜むものを和らげ、鎮める力なのだ。

 しかし同時に、悠夜は悟る。
 この力は決して安易に使うべきものではない。使い方を誤れば、霧そのものが村を呑み込む禍と化す。

 祠の灯明がかすかに揺れる中、悠夜はただひとり深く息をついた。
 守人の道は始まったばかりである――。