俳句的生活(324)-連句(12)-
連句(12)『雛祭りの巻』
令和7年 3/6(木)〜3/8(土)
連衆 二宮 典子 紀子 游々子
連衆四人での連句が続いています。それぞれの関係は女性二人が高校の、男性二人が大学の同級生で、女性と男性はまだ直接顔合わせをしたことがなく、「未央」という結社の同人・誌友という関係になっています。ラインで連句を進めることは、場所が離れている連衆にとっては最適の手段で、用があるときはそれを通知して進行を中断し、3日で一回の連句を巻きあげるというペースで進めています。対面の句座とはまた違った趣があり、これなら現役で働いている人でも参加できる方式であると認識しています。
(発句) ひな祭り五人囃子の曲を聴く 二宮
(脇句) 桃の開花は甲斐の国より 典子
(第三句) 水温み浅間の杜の土踏みて 紀子
(第四句) 駕かき二人煙草をふかす 游々子
(第五句) ガリレオの見し月影に雁の飛ぶ 二宮
(第六句) 小鳥戯る瓦の土塀 典子
(第七句) 数式のちんぷんかんぷん夜学の灯 紀子
(第八句) 切手の中の見返り美人 游々子
(第九句) 江戸美人みな同じ顔細身なり 二宮
(第十句) 役者の並ぶ浮世絵ながめ 紀子
(第十一句) 文楽の人形遣ひ足十年 典子
(第十二句) 高麗橋を行きつ戻りつ 游々子
(第十三句) 川風の流れゆく船夏の月 典子
(第十四句) この街が起点終点旅薄暑 紀子
(第十五句) 浦戸より漕ぎ出で京へ戻る人 游々子
(第十六句) 月満ち渡る鳴門渦潮 二宮
(第十七句) 本丸より眺むる桜並木かな 典子
(第十八句) 合格の証の掲示板 紀子
(第十九句) 何はともあれ珈琲を忘れ雪 游々子
(第二十句) ジャズ喫茶にて二冊読了 典子
(第二十一句) 京喫茶永居叱らる貧学生 二宮
(第二十二句) クルスの丘に聞きし讃美歌 紀子
(第二十三句) 点滅の色に幸あり聖樹の灯 典子
(第二十四句) 青ダイオード今に照るとき 二宮
(第二十五句) 西行の祖の退治せし大百足 游々子
(第二十六句) 恋も世も捨て歌詠み続け 紀子
(第二十七句) この気持ち十七音に収まらず 典子
(第二十八句) 戦さの修羅を弔う山家 二宮
(第二十九句) 落人の末裔今も祖谷の月 游々子
(第三十句) 手足揃うて踊る二拍子 紀子
(第三十一句) 姫路灘喧嘩祭りの蝦蛄の味 二宮
(第三十二句) 名酒の封を切りて乾杯 紀子
(第三十三句) 赤き傘差して伏見の街歩き 典子
(第三十四句) 小児科医あり町住まいする 二宮
(第三十五句) ひとときを花鳥に遊び花の昼 紀子
(挙句) 歌仙をめぐる清明のころ 游々子
“ひな祭り” の発句で始まった今回の連句は、第四句まで、甲斐・浅間・駕かきと、何となく江戸的な雰囲気で進んでいます。第五句でガリレオが登場したのは、作者が理学部の出であることから、場面の切り替えを図った(はず)のですが、句中の月と雁によって、もう一度江戸の浮世絵の世界に入っていきました。第十一句で文楽・人形浄瑠璃に至り、それならばと大阪の高麗橋、これは江戸の日本橋に比肩する浪速八百八橋の中心的大橋、物流の起点終点ともなった処。第十五句は時代を平安の昔に飛ばし土佐日記へ。貫之一行は難波津に上陸、そこからは川船で京に向いました。このように連句は前の句を踏まえて次へと展開していきます。挙句の “清明のころ” は杜牧の七言絶句「清明」、
清明時節雨紛紛 清明の時節 雨紛紛
路上行人欲断魂 路上の行人 魂を断たんと欲す
借問酒家何処有 借問す酒家何れの処にか有る
牧童遥指杏花村 牧童遥かに指す杏花の村
の杏花村よりイメージを借りてきて、脇句の甲斐の桃源郷に繋げようとした句ですが、どうだったでしょうか。