写真で見るプレバト俳句添削（５３）－春光戦決勝（４）－
３位 梅沢冨美男 鞦韆に退職の日の花束と
梅沢さん： 給与明細をもらったことがないので、イメージが湧かないんです。ふと思いました。私のような年齢になれば、定年するしかないんですよ。ブランコに乗っているように、毎日毎日会社に行っていたんです。いつかは降りなきゃならない、それを私の気持ちとして詠みました。この「鞦韆」、この季語をみんな知っていたか？
村上・ジュニア： 知ってました。歳時記に載ってました。
梅沢さん： そうかい、知ってたのかよ（会場爆笑）
フジモン： 退職の日にブランコ取り合わせたのは、すごくいいと思いますけどね。
夏井さん： 「鞦韆」、ブランコのことなんです。これと取り合わせてくるという、そこらへんはとても良いと思いました。そして「退職の日の花束と」、この「と」が大事なんですよね。花束と一緒に自分がぽつねんとそこに居ると。「鞦韆に」の「に」、この「に」がいいのかどうかが問題なんです。この助詞が散文的・説明的な味わいになってしまう。上五の「に」は要注意の助詞なんです。「に」以外にありえないかと吟味して、その上で使うか使わないかのタイプの助詞です。梅沢さんのお話を聞くと、「ブランコに乗っている」という、この「に」はとても大事な要素だと分かりました。そうなってきたら、「に」の説明臭さをちょっと取って余韻に変える。
添削 退職の日の花束と鞦韆に
こうすると最後の「鞦韆に」がブランコに腰かけていると、ここに余韻が生まれてもう一度退職の日の感慨に戻っていくと、こんな感じになっていきます。
梅沢さん： 恐れ入りました。でもね、これで十分じゃない？（夏井さん笑う）句集出した永世名人が優勝して当然でしょうが！
夏井さん： あんたね、これでいいじゃないかって自分を甘やかすんなら、句集出すの、もうちょっと延ばした方がいい。
梅沢さん： 編集で切れよ、今の！（会場爆笑）
游々子： 俳句を長くやっている人が、往々にして陥る悪弊の一例として、「鞦韆」のような季語を使うのがあります。その由来・故事となると、使っている人でも説明できるのは皆無で、俳句界の常識は世間の非常識といわれるサンプルになっています。梅沢さんは未だそのことに気付いていないようです。助詞「に」を下五に移す工夫ですが、夏井さんの添削は、リズムにぎこちなさがあります。私なら「退職の日や花束とブランコに」とし、「や」で一度切ってみます。歳時記についてですが、ブランコを春の季語にしているのは、あまりにも幼稚すぎると思います。それというのも、私がブランコから真っ先に連想するのが、黒沢明監督の「生きる」の最後で、初老の主人公が雪の降るなかで、ブランコに乗っているシーンであるからです。歳時記の編集者は、ブランコを幼児の遊び道具として、それには春の季節があっているとしたのでしょうが、「生きる」のように、初老のペーソスを醸し出す道具立てでもあるのです。映画「生きる」は最近、カズオ・イシグロにより、「living」というイギリス映画にリメイクされています。主人公がブランコで歌う唄は、「ゴンドラの唄」ではなく、スコットランドの民謡に置き換えられています。
１位 フジモン 給与手渡し春宵の喫煙所
フジモン： 給料を手渡しで貰っていた時代のイメージ、町工場ですね。給料貰ったら、ちょっと気持ちもウキウキするじゃないですか。みんなで喫煙所に集まってタバコ吸いながら「今日飲みにいくか」みたいな。
ジュニア： 素晴らしいと思いますけれども、ひとつ言わせてもらうと、手渡しの頃なんか、どこでも吸えましたから。
フジモン： 何今の？ 重箱の隅つつくような。
ジュニア： 喫煙所の是非です（会場爆笑）
夏井さん： 春宵という季語、この位置にある季語が主役としてしっかり立っていると、そういうところですね。やっと給料日が来たよという、ほのぼのとした談笑が聞こえてきます。タバコの匂いもします。じかに受け取る充実感というんでしょうかね。まさに懐がちょっと温かい、そんな感じの「春宵」ですから、タバコを吸い終わったら、「よし、今日はちょっと一杯やって帰るか」みたいな春宵、春の宵なんですよ。小さなところにちゃんと目をつけて季語を主役に立てると、お見事だと思います。
游々子： 原句は１７音の破調の句ですが、前半 ”給与手渡し” だと、喫煙所で給与が手渡されたとなります。給料は事務所で現金で渡されたことを明確にするため、私なら「給料を手に春宵の喫煙所」とし、句またがりの句にします。
これにより、２０２３春光戦の結果は、
１位 フジモン
２位 皆藤愛子
３位 梅沢富美男
４位 フルポン村上
５位 千原ジュニア
６位 森迫永依
７位 キスマイ横尾
８位 立川志らく
９位 春風亭昇吉
１０位 勝村政信
となりました。秋の大会の予選シードは２位までです。
