写真で見るプレバト俳句添削(52)-春光戦決勝(3)-

6位 森迫永依 本採用朧夜の缶チューハイ

チューハイ

森迫さん: バイトは最初、試用期間があると思うんですけど、それが終わったあとの本採用の給与明細を開いてみて、そのままちょっと嬉しくなって外で缶チューハイを買ってみた、という句です。

千賀さん: 本採用と聞くと、すごく嬉しいことのイメージなんですけど、缶チューハイというのでちょっと切ないイメージが来るから、気になりますね。

梅沢さん: 私はいいと思いますけどね。一つ言えることは、缶チューハイでなくレモンサワーに(浜田さん:出た! またやった! 会場爆笑、レモンサワーは梅沢さんのCMです。)

夏井さん: やろうとしていることは良いと思います。こっち(本採用)でひとつ作っておいて、季語を含んだこっち(中句下句)の塊と、そういうやり方に挑戦しているのも良いと思います。千賀さんがちゃんと見抜いているのですが、この ”朧夜” という季語が微妙なんですよね。本採用に決まらなくてモヤモヤしているんだろうか、とか読み手が迷ってしまう。だからここにちゃんと通知が来たっていうことを、しっかり描いて押さえた方が得だと思います。

添削 本採用通知春夜の缶チューハイ

着々と色んなことを身につけていますから、この調子でやっていきましょう。

森迫さん: 季語がどんな意味を含むのかっていうのは、色んな俳句を読まないと自分の中にしみ込んでこないので、勉強不足でした。頑張ります。ありがとうございます。

游々子: 原句に書かれた「本採用」は、普通に考えれば本採用が決まった、ということです。私は本採用にわざわざ ”通知” を加えるのではなく、千賀さんや梅沢さんの指摘のように、「缶チューハイ」を別のものに替える方が良いと思います。「朧夜のレモンサワーや本採用」


5位 千原ジュニア 口座開設朱肉拭き取る夏近し

朱肉

ジュニア: 僕、15歳の時に吉本から「銀行口座作ってこい」って言われて、100円でハンコ買って、人生で初めて作ったんです。その時に「ホンマに俺、今から吉本でお笑いで飯食っていけるのか?」みたいな凄い不安と、でもちょっと、「ここにギャラ振り込まれるのか!」と思った15歳の春を詠んだんですけど。

梅沢さん: 良い俳句ですよ。3位になった要因はですね(浜田さん:5位です! ジュニア:3位でいいですか?)

梅沢さん: 私、3位も5位も気にしていないので。これは季語「夏近し」が動きそうなんですよ。

ジュニア: これは動かない。「夏近し」には滅茶苦茶 ”不安” が入っている!

梅沢さん: どっちにしたって、俺が3位にいこうと1位にいこうと、お前より上なんだよ!

ジュニア: その通り! その通り! 季語は動かないです!

夏井さん: はい、中七がリアルであるということは間違いないですね。最後に朱肉を綺麗に拭き取ったハンコ、そこまで見えてきますよね。それがとてもいいと思います。で今、季語が動く動かないという話が出てまいりました。「夏近し」という季語を置くことで、溌剌とした感じもありますし、夏が近い=春が終わっていく と微妙なニュアンスもありますから、この季語に自分の思いを託しているのだからいいじゃないかっていうご意見と、いやこれは色んな風に動くよねっていうご意見と、意見は半分に分かれると、そういうタイプの句だろうと思います。もう一つのささやかな問題なんですが、読んだときに何か一回ここで(拭き取る)で切れるような印象が、ご本人にも引っかかっていらっしゃるのではないかと。その理由は何かというと、「近し」というここが形容詞、それに対してこっちが「拭き取る」、複合動詞といって動作を書くと。こことここが揃い踏みするような形になるので、韻律がちょっとバタつくんです。

添削 口座開設拭き取る朱肉夏近し

そうすると朱肉の色とか、匂いとか、押すときの手触りを残して「夏近し」という映像を持たない季語にいくので、こうするとこの季語も動かないと言い張れるのです。物凄くもったいなかったと思います。

游々子: 取り合わせの句での季語というのは、動くのが普通です。 人間が ”これしかない” と言い張ってみても、それはその人が他の季語に気付いていないだけのことです。 もう一つの問題、リズムについてですが、夏井さんはささやかな問題と言っていますが、そんなことはなく、大きな問題です。 動詞の目的語になっている名詞と動詞の語順を変えるだけでリズムが改善された訳ですから、ジュニアは簡単なことを見逃してしまい、残念なことになりました。