添削(45)ーしおさい会 令和5年2月ー

兼題: 日脚伸ぶ、辛夷、当季雑詠

渡辺美幸

原句 縁側で猫もうたた寝日脚伸ぶ

猫

佳句です。季語「日脚伸ぶ」を引き立てる12音になっています。ただ一点、助詞の「も」は使わない方が良いです。その理由は、俳句には一瞬の切れ味を求められていて、「も」は輪郭を滲んだものにするからです。本句の場合、猫以外(多分作者)の存在を滲ませていて、それは句を深めるのではなく、逆の作用をもたらしているのです。

参考例 うたた寝は猫のお得意日脚伸ぶ


原句 待ってたよ山の貴婦人こぶし咲く

これも佳句です。「山の貴婦人」という措辞が辛夷を良く形容しています。

参考例 


原句 春めきて草木綻び手袋し

惜しい! 手袋が冬の季語です。季重なりとなっても良いのは、映像を持たない時候の季語に、当季の映像を持った季語を重ねる場合です。うまく嵌まれば季節感のより強い俳句がつくれます。参考例は読売新聞に入選した私の句ですが、春隣が映像を持たない冬の時候の季語で、シクラメンが強烈な映像を持つ春の季語です。歳時記がシクラメンを春の季語としているのは俳句界の非常識なところで、こういうところは無視して構わないのです。読売の選者はよく理解してくれていたと思います。

参考例 シクラメンまとふ光も春隣

シクラメン


清水徹

原句 鬼ごっこ母の呼ぶ声日脚伸ぶ

取り合わせの句です。下五の上の12音が、一応季語と関係のないことを詠んでいますので、「や」で切った方が良いでしょう。

参考例 鬼ごっこ母呼ぶ声や日脚伸ぶ


原句 吾子無事に入試終わりて辛夷咲く

副詞「無事に」は「終わりて」を修飾しているので、近くに置かなければなりません「吾子の入試無事に終りて辛夷咲く」。俳句としては辛夷の開花を、人事にもっと濃密に結びつけるのが良いでしょう。

参考例 辛夷咲く吾子の合格祝ふごと


原句 江の島の脇に昇る日初景色

江の島

句は「江の島の初日出」を言っているだけのものになっています。

参考例 潮騒や島の影為す初日出


鈴木栄子

原句 日脚伸ぶ母の安心子の帰宅

参考例 日脚伸ぶ母も安心子の帰宅


原句 花暦めやすとなるや辛夷咲く

これは事実を述べているだけの句になっています。

参考例 花暦めくる一枚辛夷咲く


原句 一面の蝋梅の木々や香り立つ

蝋梅

蝋梅は木ですから、「木々」は不要です。また香りは立つものですから、「立つ」も不要です。

参考例 蝋梅の香る小径や長の瀞
    蝋梅や小径の先の舟乗り場


室川俊雄

原句 日脚伸ぶ友待つ砂場に高き山

季語「日脚伸ぶ」の取り合わせに「高き山」を持って来たのはグッドです。但し中句が8音になっているのと、助詞「に」が使われているのは頂けません。

参考例 高き山残る砂場や日脚伸ぶ


原句 母の背を超えてピースや花辛夷

辛夷

意味が取りづらいのですが、母の背に負われている子がピースサインしたということでしょうか。

参考例 母の背の吾子のピースや花辛夷


原句 五十肩固まりしまま山笑ふ

「山笑ふ」と関係のない12音を取り合わせているので、「や」で切った方が良いでしょう。

参考例 固まりし五十の肩や山笑ふ


伊藤美恵子

原句 立ち話ピーチクパチク日脚伸ぶ

中句を7音にするため、パチクとしていますが、パーチクで8音になるのは仕方ないのではないでしょうか。

参考例 井戸端はピーチクパーチク日脚伸ぶ


原句 音もなく沈む夕日にこぶし咲く

夕日は沈むものですから、「沈む」は不要です。辛夷の白い花に夕陽が染まっている景を詠むのが良いでしょう。

参考例 赫赫と夕陽の照らす辛夷かな


原句 母と子がしゃがんで鳴らすペンペン草

ペンペン草

ペンペン草とは春の七草の薺(なずな)のことで、花が散ったあとが三味線の撥(ばち)に似ていることからペンペン草とも呼ばれています。上五で主格となる「が」は、俳句では「の」を使い、音を柔らかくすることが一般的です。

参考例 母と子のしゃがんで鳴らすペンペン草