添削(40)-厚木若鮎会(5) 令和4年12月ー
兼題: 冬着、鴨、当季雑詠
大里興一
原句 灰色の空つきぬける鴨三羽
現実の冬の空は灰色が多いですが、気持ち良い空とするため、7音の「灰色の空」を4音の「青空」に代え、「三羽」を「親子」としてみました。
参考例 青空を突きぬく鴨の親子かな
原句 晴れた日に冬着のしたく妻笑顔
「晴れた日」を冬着の支度をした日の天候として捉えるのでなく、「晴れた日」のもとでの妻の笑顔としたほうが、句に味わいが出ると思います。
参考例 晴れた日の妻の笑顔や冬着出す
原句 時雨きて襟たてて着る茶のコート
この句は、時雨がコートの襟をたてて着たことの原因となっていて、いわゆる原因―結果の句となっています。原因―結果が何故俳句で嫌われるかというと、そのこと自体が出来事を説明した事になるからです。解消方法は簡単で、原因の事象を下五に持ってくれば、それだけで解消します。
季語についてですが、時雨とコートが季重なりとなっています。今回の兼題は冬着で、コートは外套、オーバー、マントの類の別の季語です。
参考例 襟たてて着る茶のコート初時雨
松本靖子
原句 来た道を帰りし鴨よ夫不在
来た道を帰ったのが自分なのか鴨なのかどちらでしょうか。自分であることを明確になるようにしました。
参考例 鴨の列吾は一人や川の土手
原句 ポケットに古きレシート冬衣
着想の面白い佳句です。冬着を出すのは毎年のことでしょうから、「古き」を「去年(こぞ)」とし、下五を「冬着かな」と詠嘆するのが良いでしょう。
参考例 ポケットに去年のレシート冬着かな
原句 古マント令和の渋谷闊歩する
マントが季語として使われていますが、コートと同じで、兼題の冬着とは別の季語です。古マントより旧制高校のマントを連想しました。お祖父さんか誰かの古マントで、ハロウィンの渋谷を闊歩する図をイメージしてみました。(ハロウィンは角川の歳時記には入っていませんが、8年前のNHK俳句で兼題となっています。)
参考例 ハロウィンや魔女のあと行く古マント
鍵渡裕子
原句 鴨の群れ枯色の池彩りぬ
原句の構造は、上五が主語で、下五が動詞という造りになっていて、そのまま文章に置き換えられます。季語「鴨の群れ」を下五に置き、前の12音で季語が引き立つようにすると、俳句的になります。
参考例 枯色の池に暖色鴨の群れ
原句 冬衣母鳥のごと包みたり
下五「包みたり」が説明語になっています。
参考例 冬衣卵温む鳥のごと
原句 鉢巻し北窓塞ぐ米寿なり
「鉢巻し」と「塞ぐ」と動詞が二つ使われているので、動詞が一つとなるように修正してみます。
参考例 鉢巻の米寿北窓塞ぎをり