俳句的生活(168)-少し春ある心地ー

「枕草子」百六段の条は、殿中の清少納言のもとに、藤原公任という公卿から、

すこし春あるここちこそすれ

という下の句が届き、これに上の句をつけて直ぐ返せ、というドラマチックないきさつが描かれています。その日は、風さむく小雪散る日で、清女が返した上の句は、

空さむみ花にまがへてちる雪に

というものでした。

古来、このやり取りが凄いと評価されてきたのは、公任の下の句が、白楽天の詩の一節の、”山寒少有春”を踏まえたものであるのに対して、清女が咄嗟に返した上の句も、同じ詩の中の、”雲冷多飛雪”に依ったからでした。

本欄で、何故このやり取りを取り上げたか、ということですが、先日の句会で、ある人の中七に、「山河にまごふ」というのがあり、作者は、「山河にまがふ」のどちらにしようかと迷ったとのことでした。どちらも、旧仮名表記としてありそうですが、枕草子のこの歌で、「まがふ」となっていることを思い出し、表記は「まがふ」で、読み方は「まごう」ではないかと思ったので、取り上げてみました。

私が中学1年の時の、明治生まれの担任の先生は、必ず「か」を「くわっ」、「が」を「ぐわっ」と発音していました。昔は、書き方と読み方が、一致していたのかも知れません。

濃茶飲むへふきんものの四温かな

(注)中七は、「ひょうきんもの」の旧仮名表記です。

百人一首
「小倉百人一首の全首を見る」より
清少納言 百人一首カルタ