鬼を狩る子孫 第二部・過去編 第四章 伊賀(5)
霧の向こう
三之助は、すぐには答えなかった。
視線を上げず、
そのまま静かに息を整える。
言葉を探しているのではない。
何を言うべきかを測っている。
やがて言った。
「動かします」
短い。
だが、曖昧ではない。
虎矩の眉がわずかに上がる。
「どうやってや」
三之助は、少しだけ間を置いた。
「流れを変えます」
それだけだった。
虎矩は、一瞬だけ黙った。
そして、笑った。
「言うな」
その笑みは、楽しんでいる笑みだった。
虎矩は、ゆっくりと歩き出した。
部屋の端へ寄り、
壁際に置かれた小さな箱の前で止まる。
だが、開けはしない。
ただ、そこに手を置くだけだった。

「この国はな」
振り返らずに言う。
「外に知られておらんから保っとる」
三之助は、その言葉を聞いていた。
虎矩は続ける。
「山も、道も、集まりも」
「知られたら、終わりや」
一拍。
そして、わずかに声を落とす。
「逆に言えば」
「知っておる者がいれば、どうなる」
三之助は答えない。
だが、意味は分かっている。
虎矩は、手を箱から離した。
「動かせる、いうことや」
振り返る。
その目には、はっきりとした意志があった。
「外は速い」
「強い」
「使えるものは使う」
三之助の目が、わずかに動く。
虎矩はそれを見逃さない。
「怖いか」
試すように言う。
三之助は答える。
「必要ならば」
「使うべきです」
言葉は従順だった。
だが、熱はない。
虎矩は近づいた。
三之助の前で止まる。
見下ろす形になる。
「お前は使える」
はっきりと言う。
「だがな」
少しだけ声を落とす。
「まだ、これからのことだ。」
三之助は頭を下げた。
「承知」

