鬼を狩る子孫 第二部・過去編 第四章 伊賀(2)
第二回 見えぬ力の国
伊賀の者たちは、あまり表に出ない。
武を誇ることもなければ、
名を掲げることも少ない。
だが、それで弱いわけではない。
むしろ逆である。
見えぬところで力を持つ。
それが、この国の在り方であった。
この地では、ひとつの決まりが重んじられている。
――ひとりで決めない。
村ごとに、
谷ごとに、
人が集まり、話し合う。
それをまとめる者はいる。
だが、それが絶対ではない。
誰かが強く出すぎれば、
別の誰かが抑える。
そうして、全体の釣り合いを保つ。
このやり方は、外の国の者には理解しにくい。
都では、名のある者が命じ、
それに従うのが当たり前である。
だが伊賀では、
命じる声は、ひとつではない。
だからこそ、外からは掴みにくい。
この国には、「忍び」と呼ばれる者たちがいる。
だがそれは、後の世で語られるような、
姿を消し、空を飛ぶような者ではない。
山を知り、
道を知り、
人の気配を読む者たちである。
どの谷に水が流れ、
どの道が崩れやすいか。
誰がどこへ行き、
何を持っているか。
そうしたことを、自然と知っている。
それを、必要なときに使う。
それだけのことだった。

この国では、情報もまた流れる。
銭のように目に見えるものではないが、
確かに動いている。
誰がどこで何をしたか。
どこで争いが起きたか。
どの家が外と通じたか。
それらは、いつの間にか伝わり、
いつの間にか、収まるべきところへ収まる。
だが、すべてが収まるわけではない。
時に、その流れは乱れる。
外からの力が入り込むとき。
あるいは内側で利が偏るとき。
見えぬ流れが、よどむ。
そのとき、この国では何かが起きる。
表に出ないだけで、
確かに、動く。
その朝も、霧はまだ残っていた。
山の端に陽が差し、
ゆっくりと霧を押し上げていく。
だが完全には晴れない。
谷の奥には、まだ白い層が残っている。
その中で、
何かが動いていた。
人か、風か。
それとも、別のものか。
まだ、誰にも分からない。
だが、この国では――
見えないものほど、
確かであることを、
皆が知っていた。

