鬼を狩る子孫 第二部・過去編 第四章 伊賀(4)

試しの問い

屋敷の奥の一室。

朝の光は少しずつ強くなり、
障子越しに柔らかく広がっていた。

葛山虎矩は、三之助を前にしたまま、
しばらく何も言わなかった。

沈黙は長い。

だが、気まずさはない。

虎矩が、相手を見ている時間だった。

三之助は動かない。

視線は低く、
だが意識は周囲に張り巡らされている。

創作小説の挿絵

やがて虎矩が口を開いた。

「どこで覚えた」

唐突な問いだった。

三之助は顔を上げないまま答える。

「山で」

短い。

それ以上は言わない。

虎矩は、わずかに目を細めた。

「山か」

言葉を繰り返す。

「誰に教わった」

間を置かずに、次を重ねる。

三之助は、ほんの一拍考えてから言った。

「人に、ではありませぬ」

虎矩の口元が、わずかに動く。

「ほう」

「では何に教わった」

三之助は言う。

「道と、風です」

虎矩は、初めてはっきりと笑った。

「言うやないか」

軽く膝を叩く。

だがその目は、笑っていない。

「つまり、お前は誰にも縛られておらん」

三之助は答えない。

否定もしない。

それが答えだった。

虎矩は少しだけ身を乗り出す。

「伊賀の者か」

「はい」

「どの谷や」

「決まってはおりませぬ」

虎矩は、その言葉を繰り返した。

「決まっておらぬ、か」

そして、ふっと息を吐く。

「便利な男やな」

三之助は何も言わない。

虎矩は茶を一口すすり、
少し調子を変えた。

「この国、どう見る」

今度は、答えの中身を試している。

三之助は、すぐには答えなかった。

一拍。

二拍。

やがて言う。

「静かに見えます」

虎矩は頷く。

「見える、な」

三之助は続けた。

「だが、動いております」

空気が、わずかに変わる。

虎矩の目が細くなる。

「何がや」

「人です」

短く答える。

「表ではなく、裏で」

虎矩はしばらく三之助を見た。

やがて言う。

「お前、見えておるな」

三之助は頭を下げたまま言った。

「少しは」

控えめだが、否定しない。

虎矩は笑う。

「少しでそれか」

「十分や」


虎矩は立ち上がった。

障子の外へ目をやる。

谷の向こうには、まだ霧が残っている。

「伊賀はな」

ぽつりと言う。

「静かすぎる」

振り返らずに続ける。

「静かいうことは、止まっておるいうことや」

三之助は、その背を見ていた。

何も言わない。

虎矩はゆっくりと振り返る。

「お前なら、どうする」

試すような問いだった。