鬼を狩る子孫 第十一話 相模川の杭(1)
旧流路に立つ
相模川の旧い流れの跡に立つと、
今、本流となっている川が、
どれほど「新しい場所」に収まっているかが分かる。
ここは、
現在の相模川の堤防ではない。
川らしい姿も、
もうほとんど残っていない。
だが、
地面は周囲よりわずかに高く、
乾いている。
洪水のたびに土砂が積もり、
自然堤防となった痕跡だった。
「……中途半端な場所ですね」
蓮が、
スマートフォンの地図と、
事前に読んだ記事を見比べながら言った。
「川でもないし、
完全な陸でもない」
「せやから、
話題になる」
嵐山は、
短く答えた。
四人がここへ来た理由は、
はっきりしている。
数日前、
地元紙とネットニュースで
「相模川旧流路付近で古い木杭が発見された」
という記事が出た。
橋の遺構の可能性。
時代は未詳。
発見者は、
地元で長く活動している郷土史研究家。
大きくはないが、
妙に目を引く話題だった。
嵐山は、
足元を見下ろした。
報道写真で見たのと、
同じものが、
草の間から顔を出している。
黒ずんだ木。
人の背丈ほどの、
太い杭。

表面は荒れ、
ところどころ欠けているが、
人工的に加工された跡は、
今もはっきり残っていた。
「……これが、例の」
悠夜が、
低く言った。
「橋の杭や」
嵐山は、
即答した。
真衣が、
周囲をぐるりと見回す。
「でも……
ここ、
橋が必要な場所には見えません」
「今は、な」
嵐山は、
西の方角――
現在の相模川本流が流れている方向を指した。
「相模川は、
何度も洪水を起こして、
流れを西へ寄せてきた」
今度は、
東を指す。
「頼朝の時代の川筋は、
もっと向こうや。
関東大震災のときに
橋脚が出てきた場所が、
それに近い」
悠夜は、
眉をひそめた。
「じゃあ……
ここは、その途中?」
「そういうことや」
嵐山は頷く。
「江戸の頃、
川が西へ移っていく途中で、
この辺りまで
流れとった時期がある」
須賀村と馬入村。
かつては同じ生活圏だった土地が、
今は川を挟んで分かれている。
地図を見れば、
一目で分かる事実だ。

「……じゃあ、この杭は」
蓮が、
慎重に言葉を選ぶ。
「頼朝の橋でも、
馬入橋でもない?」
「少なくとも、
断定はできへん」
嵐山は、
そう答えた。
真衣は、
杭の根元にしゃがみ込む。
「でも……
自然に出てきたにしては、
ちょっときれいすぎませんか」
土の付き方。
傾き。
周囲の地層。
洪水で削られた、
というよりは――
「……置かれた、
みたい」
悠夜が、
ぽつりと言った。
その言葉に、
誰もすぐには反応しなかった。
嵐山は、
少しだけ目を細める。
「川はな」
声は低い。
「嘘はつかへん。
せやけど――
人は、
物語を整えてしまう」
風が吹き、
草がざわりと揺れた。
今はただの空き地に見えるこの場所も、
かつては、
確かに水が流れていた。
そして今、
その「途中の時間」から、
一本の杭が顔を出している。
相模川は、
今日も黙っている。
だが、
何も語っていないわけではなかった。


