鬼を狩る子孫 第十話 大山詣り(8)

こま参道を越えて

ケーブルカーの扉が、
低い音を立てて閉まった。

 車内は思ったより狭く、
木製の床と、
やや急な傾斜が、
これから山に入るのだという感覚を強めてくる。

「昔は、
 ここまで全部歩きやったんや」

 嵐山が、
窓の外を見ながら言った。

「せやからな、
 ここから先は
  “覚悟を決める場所” やった」

 悠夜は、
ガラス越しに見える斜面を見つめた。

 町の屋根が、
すでに少し低く見える。

創作小説の挿絵

 ケーブルカーが動き出すと、
ゴトン、と
身体が後ろへ引かれる。

「うわ……急だね」
 真衣が思わず声を上げた。

「これ、
 歩いたら結構きつそう」
 蓮も苦笑する。

「せやろ」
 嵐山は頷いた。
「講中の連中はな、
 太刀を担いで、
 これを登ったんや」

 悠夜の脳裏に、
石畳の坂を、
笑いながら登っていく人々の姿が浮かぶ。

 信仰。
 娯楽。
 そして、
 少しの無理。

 それらが混ざり合って、
“大山詣り” は続いてきた。

 ケーブルカーは、
ぐんぐん高度を上げていく。

 木々の緑が、
すぐ目の前まで迫る。

 街の音は、
もう聞こえない。

 代わりに、
風が枝を揺らす音と、
車輪の規則的な響きだけが残る。

(……山に入った)

 悠夜は、
はっきりとそう感じた。

 ふと、
鞄の中のノートが思い浮かぶ。

 旧大山街道で見つけた、
「SOS」の文字。

 蛇のように、
うねった線。

(あれは……
 街道にあった)

 けれど今、
自分たちは山へ向かっている。

 街道と山。
 人の世界と、
 信仰の世界。

 その境目を、
ケーブルカーは
一直線に貫いていく。

「なあ」
 蓮が小さく言った。
「街道って、
 やっぱり山につながってたんだな」

「せや」
 嵐山は即答した。
「道は、
 人を運ぶだけやない。
 考えも、
 信仰も運ぶ」

 ケーブルカーは、
終点に近づいていた。

 前方に、
開けた空間が見える。

 扉が開けば、
そこはもう
大山の中腹だ。

 悠夜は、
胸の奥が
静かに高鳴るのを感じていた。

 社会科の課題として
歩きはじめたはずの調査は、
いつの間にか、
自分たちを
もっと深い場所へ
連れてきている。

 山は、
まだ何も語らない。

 だが確かに、
少年たちは今、
“山の側” に立っていた。