鬼を狩る子孫 第五話 いじめ(4)

黒板の文字

昼休みのチャイムが鳴っても、教室には笑い声がなかった。弁当を広げる者もいれば、スマホを覗く者もいる。しかし、どの会話も短く途切れ、すぐに沈黙に戻った。

真衣は窓際の席で、昼食を取るふりをしていた。机の上には、ほとんど手をつけていない弁当箱。時おり視線を感じて顔を上げるが、すぐにまた下を向いた。悠夜と蓮は教室の後ろからその様子を見ていた。

「……やっぱ、誰かが止めないと」

蓮がつぶやいた。

「でも、言ったら “仲間外れ” にされる」

悠夜の声は低かった。

ふと、前の席の男子がくすりと笑った。笑いながらノートに何かを書いている。その背中に、悠夜は目をとめた。

放課後、悠夜と蓮は校庭の隅で立ち話をしていた。

「書いてたの、見た?」
「 “キモいのは先生のほうだ” って」
「先生って……川村先生?」
「たぶん。いじめ止めないくせに、いい人ぶってるってさ」

悠夜は息をのんだ。その言葉は、真衣ではなく教師に向けられていた。
誰も信じていないのだ――友だちも、大人も。

そこへ、嵐山が現れた。グラウンドの向こうからゆっくり歩いてくる。背広の上着を脱ぎ、ワイシャツの袖をまくっている。

「よう調べとるな。おまえら、探偵にでもなる気か」
「……違います。ただ、放っておけなくて」

嵐山は笑った。

「そらええことや。けどな、人の悪意っちゅうのは、空気より軽い。放っといたら、どこにでも入り込む。ほな、どうする?」

悠夜は考え込んだ。

嵐山は空を見上げた。秋の雲がゆっくりと流れている。

「答えはな、誰かの中にもうあるんや。先生らが封じとるもんを、おまえらが見つけたらええ」

その声は穏やかだったが、その奥に、どこか鋭い光が潜んでいた。

夕方、教室に戻ると、黒板の隅に白いチョークの文字があった。
 ――「みんな、見てたよね」

創作小説の挿絵

字は震えていたが、確かに人の手で書かれていた。
誰が書いたのかは分からない。けれど、その言葉が、教室の空気に静かな波紋を広げていった。

夕陽の差す教室で、誰もがその文字を見つめていた。言葉を失ったまま。その沈黙の中で、風がゆっくりとカーテンを揺らした。

連句

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