連句(30)

この連句を行っている中、東京でも最高気温が30度を下回るようになり、漸くのことで秋を迎えることとなりました。発句は『芋の露』と、秋の深まりを思わせる内容で始まり、昨日までの猛暑は何だったのかと思うほどになりました。

連句(30)『芋の露の巻』 
令和7年9月21日(日)〜9月24日(水)
連衆  典子 紀子 游々子 二宮

(発句)     里山の畑に零るる芋の露          典子

(脇句)     水を集めて墨する窓辺           紀子

(第三句)    菊の酒黄色きままに腑に落ちて       游々子

(第四句)    心持ち良く夢中に迷う           二宮

(第五句)    緑陰のベンチに憩ふ旅夫婦         典子

(第六句)    鬼灯市に流る鐘の音            游々子

(第七句)    観光を終へて帰国の国際線         紀子

(第八句)    見しを反芻思いを包む           二宮

(第九句)    カラオケのデュエットソングで恋に落ち   典子

(第十句)    近くて遠し五番アベニュー         游々子

(第十一句)   ティファニーでクロワッサンとコーヒーを  紀子

(第十二句)   美術館にて至福の時間           典子

(第十三句)   冴え月に神歌の高し熊祭          游々子

(第十四句)   雪螢舞ふ新十津川村            紀子

(第十五句)   開拓の労苦の記憶石狩に          二宮

(第十六句)   星満天の阿智の村里            游々子

(第十七句)   地図広げ額寄せ合ふ花日和         典子

(第十八句)   秀吉の城巡る御座船            紀子

(第十九句)   古き町雛人形の賑わえる          二宮

(第二十句)   嵯峨の細道みたりの尼僧          游々子

(第二十一句)  川奥の限界の村ダムの音          二宮

(第二十二句)  水は麗しクリーンエネルギー        紀子

(第二十三句)  清滝を越えて芦生へ真桑瓜         游々子

(第二十四句)  増える獣害悩みは尽きぬ          典子

(第二十五句)  芸と愛もて『国宝』てふ物語        紀子

(第二十六句)  世界宝のゴッホの家族          二宮

(第二十七句)  モネの絵のごとき出雲の湖入日       游々子

(第二十八句)  城下町より茶の香漂ひ           典子

(第二十九句)  虫の声月にはいないキリギリス       二宮

(第三十句)   銀河の中の無二の惑星           紀子

(第三十一句)  秋祭親子三代法被着て           典子

(第三十二句)  太鼓の音聞く神社の鳥居          二宮

(第三十三句)  人はいさ旅立しらね群の鳥         游々子

(第三十四句)  遠き故郷の夕暮の空            典子

(第三十五句)  あんぱんを頬張り眺め花の城        紀子

(挙句)     天守の見える追手門から          二宮  

里山の畑に零るる芋の露

芋の葉に溜まる露は、夜間に水蒸気が結露したもので、明け方に充分に気温が下がるところで発生します。それは通常の郊外の畑では起きにくく、里山の畑の里芋の葉に露は溜まるものです。それが零れるほどに溜まっている、本格的な秋の訪れを詠んで、連句の骨格を決めています。

水を集めて墨する窓辺

脇は発句を補完する役割を果たす句ですが、ここでは芋の露を集めて墨をすろうというもので、竹林の七賢人を思わせるような風流な句となっています。

菊の酒黄色きままに腑に落ちて

この連句を始める少し前には、重陽の節句があり、食用菊を盃に入れて酒を酌む風習がありました。第三句は発句と脇句からは離れて飛躍する座ですが、脇の “風流” を引き継いだ内容になっています。

心持ち良く夢中に迷う

酒をのんで、夢の中でも迷ったと、人生は迷いからは切れないものと達観しています。

緑陰のベンチに憩ふ旅夫婦

夏の座の句ですが、秋になったことを踏まえて、選ばれた季語も “緑陰” と、気持ちの良い句としています。

鬼灯市に流る鐘の音

鬼灯(ほおずき)市は、東京では浅草と入谷のものが有名で、江戸から続く風物詩となっています。どちらも浅草寺に近く、鐘の音が聞こえてきます。

観光を終へて帰国の国際線

連句では海外に飛ぶことも必要で、この句はそのきっかけを与えようとしています。

見しを反芻思いを包む

本句は日本に向かう飛行機の中で、彼の地での見聞を反芻しているという句です。

カラオケのデュエットソングで恋に落ち

本句は恋の座の句で、恋に物語性を持たせようとしています。

近くて遠し五番アベニュー

本句は高橋真梨子の「五番街のマリーへ」です。1989年に大ヒットし、カラオケでもよく歌われました

ティファニーでクロワッサンとコーヒーを

五番街へ行ったならば、それはマリーの家ではなく、ティファニーです。オードリー・ヘップバーンの映画を思い出しながら朝食を頂きましょう。

美術館にて至福の時間

ニューヨークマンハッタンの五番街(5th avenue)はパリのシャンゼリゼ通りに匹敵する通りで、ティファニーやエルメスなどの高級ブランド店だけでなく、メトロポリタン美術館という世界最大級の美術館があります。日本の作品では尾形光琳の八つ橋の屏風が展示されています

冴え月に神歌の高し熊祭

そろそろ場所を日本に戻そうとして、アイヌの熊祭(イオマンテ)が詠まれました。本句は冬の月の座であったため、熊祭という冬の季語が使われました。

雪螢舞ふ新十津川村

新十津川村は明治22年に紀伊半島を襲った洪水のために、奈良県の十津川村から2000人あまりの人が入植して出来た村です。そこには先住民としてアイヌコタンがあったのですが、強制移住させられたという歴史を持っています。

開拓の労苦の記憶石狩に

北海道の開拓は、明治初年より石狩地方を中心として始まりました。各地に開拓の記念碑が遺されています

星満天の阿智の村里

開拓ということで想起されるのは戦前に国策として進められた満蒙開拓団。一番多く開拓団に加わったのは長野県で、県南部の阿智村に満蒙開拓記念館が作られています。阿智村はまた、星が良く見える処として知られています。

地図広げ額寄せ合ふ花日和

俳句で花と言えば桜の事で、花日和とはお花見に適した天候のこと。どこで花見しようかと地図を広げて相談しています。

秀吉の城巡る御座船

それは大阪城のお堀を巡る船が良いのでは、と返しています。

古き町雛人形の賑わえる

春は雛人形の時期、古い町での吊るし雛などは風情あるものです。

嵯峨の細道みたりの尼僧

古き町、古都といえば京都。嵯峨野の奥の祇王寺には、祇王・祇女・仏御前の三人の若い女性が尼となり、愛憎があったはずにも関わらず、平穏に暮らした、となっています。

川奥の限界の村ダムの音

嵯峨の細道の奥から川奥へとつながりました。限界の村にダムが造られていて、都会に水を供給しています。

水は麗しクリーンエネルギー

水力発電はクリーンなエネルギーで、そう思ってダムの水を見ると麗しくさえ思えます。

清滝を越えて芦生へ真桑瓜

古都の清流は清滝川。川に沿っては周山街道が走り、京大演習林のある芦生へと繋がっています。清滝は真桑瓜の産地で、落柿舎に滞在していた芭蕉には、弟子が清滝の真桑瓜を届けたりしています。

増える獣害悩みは尽きぬ

瓜のような作物は、害獣の標的になっています。

芸と愛もて『国宝』てふ物語

映画『国宝』はヒットしましたね。愛と芸の物語です。

世界宝のゴッホの家族

国宝というのがあるとするなら、世界宝というのもあって良いのではないかと、それにはゴッホの作品を守った家族の愛が相当するのではないかと、本句は主張しています。

モネの絵のごとき出雲の湖入日

モネの絵に「印象・日の出」というのがあり、宍道湖の入日は印象派の題材になるのではないか、と本句は詠んでいます。

城下町より茶の香漂ひ

松江には不昧公という茶の湯を愛した大名がいて、今でも茶道の盛んな町になっています。

虫の声月にはいないキリギリス

本句は面白い!月にキリギリスは居ないという、当たり前のことを堂々と詠むのも、俳句の一つです。今「ギーッチョン」と鳴いている虫はキリギリスに違いありません。

銀河の中の無二の惑星

無二とは二つとして無いということで、地球のことを指しています。キリギリスは月にはいなくても、わが地球では鳴き声を聴かせてくれています。

秋祭親子三代法被着て

親子三代が揃いの法被で秋祭りに参加できるのは、最高の幸せです。

太鼓の音聞く神社の鳥居

日本の祭は神社ごとに神輿をもって、氏子が祭を担ってきましたが、この伝統はこの先も途切れることはないでしょう。

人はいさ旅立しらね群の鳥

本句は紀貫之の和歌をもじったもの。鳥が群を作っていてもその旅立ちがいつであるか、人にはわからないだろうな~という句です。

遠き故郷の夕暮の空

鳥が帰る故郷はこの夕暮れの空の向こうだろうな~という句です。

あんぱんを頬張り眺め花の城

「人はいさ」から土佐を連想し、NHKの朝ドラの「あんぱんまん」の高知を詠んでいます。

天守の見える追手門から

高知城は花のお城でもあり、追手門からの光景が最も美しいお城となっています。

芋の露の発句から高知城の天守の挙句まで、今回も楽しい連句となりました!