鬼を狩る子孫 第二話 影を落とす契約書(4)

(4)

翌朝。
まだ夜明けの薄明かりが街を包んでいる。
悠夜は眠りの浅さに耐えきれず、早くから制服に袖を通していた。
机の上に置いた勾玉は、昨夜の熱を失ったはずなのに、まだかすかに温もりを残している。

「……やっぱり、誰かが狙われてる」
小声でつぶやく。
胸の奥に残るざわめきは、前に竹内先生が鬼にとりつかれたときと同じものだった。

そのとき、窓の外から小石が跳ねる音がした。
カツン、と硝子を叩く軽やかな音。

窓を開けると、下には眠そうな顔の蓮が立っていた。
「おい悠夜! なんか昨日の夜から胸がざわざわして寝られなくてさ……お前んとこ、また勾玉反応したんじゃないか?」

悠夜は驚いて目を見開いた。
「蓮……お前も感じたのか?」
「感じたっていうか……嫌な夢を見たんだよ。黒い紙みたいなのが広がって、人を縛りつける夢。気持ち悪くて、飛び起きた」

蓮の言葉に、悠夜は深く頷いた。
「間違いない。鬼だ……。でも、今回はただの影じゃなかった。契約書みたいなものを媒介にしてた」

二人は人気のない通学路を歩きながら、声を潜めて話し込んだ。
登校する生徒たちが笑い声をあげる中で、二人だけが別の世界に足を踏み入れているかのようだった。

「なあ悠夜。前も思ったけど、なんで俺たちなんだろうな。なんで俺たちに鬼の声が届いたり、勾玉が反応したりするんだ?」

創作小説の挿絵

蓮の問いに、悠夜は一瞬ためらいながらも答えた。
「……俺には、たぶん理由がある。
 父さんから聞いたんだ。俺たちの家系は “霧の小次郎” っていう鬼狩りの末裔だって」

蓮が立ち止まった。
「……霧の小次郎? あの伝説の?」
「うん。でも、半信半疑だった。けど……あのとき先生を助けたとき、勾玉が応えたんだ。もう疑えない。俺は――鬼を狩る子孫なんだ」

蓮はしばし言葉を失ったが、やがてにやりと笑った。
「なるほどな。じゃあ俺は? ただの巻き込まれた親友か?」
「そんなことない! 蓮がいなかったら、俺はとっくに負けてた。勾玉が応えるのは、俺ひとりの力じゃない。お前や、みんなの心があってこそなんだ」

悠夜の真剣な眼差しに、蓮は頭をかきながら笑った。
「……そっか。ならまあ、相棒としては悪くねえな」

二人は歩を進める。
その先に、再び鬼が仕掛けた「契約」の影が待ち受けていることを、まだ知らずに。