添削(35)ー厚木若鮎会(2) 令和4年9月ー

原句 寝れぬ夜はあの頃のこと月あかり

何かの事情で眠れぬ時期があり、そんな時でも月は私を慰めてくれた、という句ですね。

参考例 寝ねぬ夜や月の光の柔らかき 


原句 蝉鳴けど網持つ子等の姿みず

景色の見える佳句です。直すところはありません。


原句 蜩や啼けば風音はやまれり

蜩の鳴き声は、空気を震わすように伝わってきますね。風がなくてもあるように。

参考例 蜩や風が風追う五輪塔


原句 秋雨や切り抜き再度読み返す

「再度」と「読み返す」が重なっています。「再度」を省略するか、再読としなければいけません。

参考例 読み返す切り抜き秋の雨降る日


原句 神社まで小一時間の秋の旅

神社まで小一時間かけて歩いた、という句ですが、それだけだと、あ~そうですか、となりますので、その一時間で何か発見したことを入れましょう。

参考例 秋の宮五千歩なりし一時間


原句 麗かに白熊泳ぐ秋の空

「麗か」が春、「白熊」が冬、「秋の空」が秋の季語です。歳時記あるいはネットで、季語を確認する習慣を身につけましょう。原句からは離れますが、

参考例 百年を咆え続けをり北の熊

原句 勢いてなく蝉の亡骸朝見つけ

下五の「朝見つけ」が不要です。その理由は、俳句というものは、作者が見て聞いて考えたことを述べるものですから、作者の所作は不要なのです。

参考例 あさぼらけ天に在します蝉の魂


原句 三日月やここへおいでと観覧車

この語形は不正確で、三日月が観覧車に呼び掛けているのとならず、逆に観覧車側が三日月に、ここにおいでと、呼び掛けたことにもなっていません。

参考例 三日月に届くが如く観覧車


原句 秋澄むは血圧記帳旅に飛ぶ

参考例 旅行くや血圧手帳秋澄めり


原句 朝顔を数えて始む祖父(じじ)の朝

佳句です。直すところはありません。


原句 畦みちを真赤に染めて彼岸花

彼岸花が「真赤に染める」は平凡です。

参考例 畦みちは三途の川か彼岸花