添削(34)ー令和4年9月 しおさい会ー

渡辺美幸様

原句 月白し森羅万象茜空

この句の中七の、”森羅万象” をみて、私のブログ「プレバトを斬る(26)」の篠原麻里子さんの「万緑や多様性なる人の色」の中七を思い起こしました。夏井さんの言っている通りで、この類の抽象語は、俳句では使わないようにするのが無難です。

参考例 月白し東雲染むる大裾野


原句 瞳会い畦の案山子の照れ笑い

焦点が瞳と照れ笑いに分散しています。笑いに焦点を絞りましょう。

参考例 畦ゆかば笑い出しそな案山子かな


原句 烏帽子岩富士を抱えて秋澄める

”抱える” が擬人化された動詞ですが、擬人化はしつこい感じを伴いますので、さらっと描写した方が良いです。

参考例 烏帽子岩(えぼし)より富士の秀峰秋澄めり


杉山徹様

原句 廃墟より彷徨う月とパンドーラ

パンドーラとはアニメの重神機パンドーラのことでしょうか。私は見ていないのでコメントしようがないのですが、一般的に、劇などのあらすじを俳句にするのは止めて置いた方が良いです。その理由は、17音で表現されたものが元の作品に敵うはずがないからです。俳句は別の領域でその力を発揮しなければいけません。

参考例 月天心廃墟に影を映しをり


原句 親と子の案山子が守る小さき谷戸

茅ヶ崎北部には小さい谷戸が点在し、そのようなところにも、猫のひたいのような田が作られています。親子の案山子に眼をつけたのは良いです。

参考例 谷戸の田を守る案山子の親子かな


原句 窓開きしばし音読風涼し

上五が下五とイメージが重なっています。「しばし」の措辞は要らないでしょう。

参考例 風凉し声して読むや旅紀行


松岡道代様

原句 満月に満天の星嬉々として

上五に使われている「に」は注意を要する助詞です。例えば芭蕉の名句となっている「古池や」の句も、「古池に蛙飛び込む水の音」とすると、広がりの無い凡句となってしまいます。原句も同じで、「に」ではなく「や」でなくてはなりません。「満月や満天の星嬉々として」。ところが、満月の時は暗い星は見えず、上五と中七以下は矛盾したものになっています。満月のため、星は隠れている内容でなければなりません。

参考例 満月や三等星は一休み


原句 見つけたり笑う案山子の孫に似て

上五の「見つけたり」は作者の所作であるので不要です。笑うのが孫であるとして、それを深掘りするのが良いです。

参考例 手を叩き笑う孫似の案山子かな


原句 紅さして母を送りし彼岸花

お母さんを送った時、紅で綺麗に整えたという句ですね。紅に焦点を当てるのが良いです。

参考例 彼岸花送りし母の紅き紅