添削(19)ーT.Mさん しおさい会(5月)ー

原句 虹立ちて願いかなえる夢舞台

”夢舞台” が 作者にとって何なのか、理解できません。梅沢富美男のヒット曲の ”夢芝居” を連想してしまいました。中七の表現は、散文的になっています。俳句は、初期のうちは、なるたけ具体的に映像を伴った句を創るのが良いと思います。

参考例 虹立ちぬ夢一筋の芝居道


原句 父母の有り日思いてかしわ餅

両親を追憶しながら、かしわ餅を頂く、という句ですが、この句の中七のように、直截的にそのことを云うのではなく、別のことを叙述して追憶の気持ちを述べるのが、俳句というものです。

参考例 妻も吾も父母の歳超ゆかしわ餅


原句 風薫るゆらゆら揺れる水面かな

風が吹くと水面が揺れるのは当たり前で、それが ”ゆらゆら” であろうとなんであろうと、そこに詩情は生まれません。”水面” を活かして、「風薫る椎の木映す水面かな」。これは、漱石の三四郎が初めて、ヒロインの美禰子と、東大の池で遭う場面を連想したものです。季語として ”風薫る” を選んだ場合は、残りの12文字で、思いっきり爽やかな情景を詠むと良句になり易いです。

参考例 湧水の黒き魚影や風薫る
    森を行く甲斐の引馬風薫る