連句(41)
連句(41)『初がらすの巻』
令和8年2月11日(水)~2月13日(金)
連衆 游々子 典子 後藤 紀子 二宮
各句のコメントは自句自解です。
(発句) 初がらす微動だにせぬ国見かな 游々子
今日は建国記念日なので、八咫烏が神武を熊野から大和に導いた事より鴉を季題とし、元朝に大和三山の樹より大和盆地を俯瞰している様を想像してみました。
(脇句) 茜の空に冴ゆる鳴き声 典子
前句自解の八咫烏は太陽の化身でもあると知り、朝焼けの空を想像しました。
よろしくお願いします。
(第三句) 旅の宿沖の大島明けそめて 後藤
先月の熱海旅行を題材に詠みました。
(第四句) 諸国の武将いざ鎌倉へ 紀子
熱海は多くの武将や文豪に愛された名湯。
頼朝が落ち延びて水を飲んだという一杯水、と言う場所があるそうですね。
そこから悲願の鎌倉幕府を開いた事を連想しました。
(第五句) 馬入川の舟にて詠むる夕月夜 游々子
鎌倉三代将軍源実朝の馬入川の舟で詠んだ夕月夜の歌が金塊和歌集に載せられています。
(第六句) 岸のススキの靡く風音 二宮
実朝の思いはどんなだったかわかりませんが、響きます。
(第七句) 秋晴の白川郷へ一人旅 典子
前句のススキより茅葺屋根の家を連想しました。
(第八句) 恋人浮かぶシャガールの空 後藤
脈絡ありませんが、大きくジャンプしてみました。
(第九句) 猪牙舟に先を越さるる土手の人 游々子
ややこじつけですが、空の飛行に川舟と地上の歩行を関連付けました。掲句は江戸の吉原への通いを詠んだもので、ルートとして隅田川を舳先の尖った猪牙舟で行くのと日本堤を歩いて行くのとの二つがありました。猪牙舟は高速で、日本堤を歩く人を追い越していったものです。
(第十句) 野崎詣りは川岸通り 二宮
船に乗り、ふるさとに、春風や堤長うして家遠し、を思い出します。
おそめ久松の話も知らないのですが、相合傘の歌だけ、そのはじめだけが記憶に残ることです。
(第十一句) 天守閣高層ビルの下に見て 典子
江戸時代野崎詣りの屋形船は、大阪城北にある八軒家浜から出ていたそうです。
(第十二句) 金魚すくいは江戸の風物 游々子
豊臣秀長の居城は大和郡山。今その地は金魚の一大産地になっていますが、皮肉にも金魚が庶民の間に拡がったのは、豊臣が滅んで江戸の世になってからでした。
(第十三句) 月島の下町めぐり汗に風 二宮
月島と言っても行ったこともありません。漫画「美味しんぼ」でモンジャ焼きが月島を舞台にしてたような気がします。
(第十四句) 赤い靴てふバス走る街 後藤
江戸から横浜へ移動します。主に観光客向けに横浜中心部を巡る赤い靴と名付けたミニバスが走っております。
(第十五句) アメリカへ渡る大きな異国船 紀子
赤い靴の女の子の歌が頭を回っていましたので、横浜の波止場から船が出港した事を詠みました。
(第十六句) パラグアイ行く移民の一家 二宮
同級生が一家でパラグアイに、最後の移民時代ですね。
(第十七句) 空海の宇宙は桜菜の花忌 游々子
今日2月12日は司馬遼太郎の菜の花忌。彼は『空海の風景』という小説を書いていますが、和歌的桜が散ることへの感傷を伴った人間中心のものであるのに対して、密教的桜は変化そのものが仏であり宇宙中心のものとなっています。
(第十八句) お遍路笠に落つる雨粒 典子
時々、伯母がお遍路での経験を話してくれたのを思い出します。
(第十九句) ほつほつと点る島の灯春の暮 後藤
お遍路さんから瀬戸内海の島の景色をイメージしました。
(第二十句) 修行路歩き続ける 二宮
土佐はお遍路さんには道が遠い、寺の間の距離が長い。地域の接待も少ない
(第二十一句) ヒゲじいのインドヒマラヤトレッキング 紀子
前句の歩き続けるから、泉大津に住んでいる「川崎廣進」さんと言う芸術家を思い出しました。全国の色んなモニュメントとか庭を作ってるんです。
そしてインドやネパールの庭も作り、トレッキングにも出かけて行く凄い方です。
(第二十二句) 小百合演ずる女性登山家 典子
前句より、昨年秋公開の映画で、吉永小百合さんが登山家・田部井淳子さんをモデルにした主人公を演じていたのを思い出しました。
(第二十三句) 凍道にジェルソミーナの歌流る 後藤
好きな映画を1本だけ選べと言われたら、1も2もなく、イタリア映画 「道」を選びます。ジェルソミーナはヒロインの名前です。
(第二十四句) ピアノ奏でるラーソラソラー 游々子
映画『道』は高校の時に見ましたが、その後ニーノ・ロータ作曲の主題歌を幾度となく聴きました。現在ではピアノのソロでも演奏されています。
(第二十五句) 厳かに響く声明寺の朝 典子
前句、前句自解の主題歌、ピアノなど音楽より声明を連想しました。
(第二十六句) 始まりはアダムとイヴの罪 紀子
飛びました。人間として生きること、恋し家族を守ること、これら全てはアダムとイヴの一口の林檎から。
(第二十七句) 駆け落ちでホモサピエンス世界占む 二宮
人類10万年の旅 アフリカから、世界中に
(第二十八句) インドネシアの洞窟壁画 後藤
詳しい事は忘れましたが、最近インドネシアで世界最古の洞窟壁画が見つかったと報じられておりました。
(第二十九句) 月光のシルクロードの果ての国 紀子
28句の洞窟壁画から敦煌の莫高窟、そこからシルクロードの月を連想しました。
(第三十句) マルコ・ポーロの望郷の念 典子
マルコ・ポーロは東方への大冒険の途中、何度も故郷を思い出したことと思います。
(第三十一句) 青春の切符乗り継ぐ鰯雲 游々子
「ジパングの旅の手帳」だと近すぎるので、青春18切符にしてみました。
(第三十二句) 泊まってみたし星野リゾート 紀子
星野リゾートが奈良監獄をラグジュアリーなホテルに改装して、1泊何十万円もするらしいです
(第三十三句) 地図の上旅するならば夢心地 二宮
歩行力も落ちて、◯もなく、回想のあなた此方(笑)
(第三十四句) 吉里吉里国の通貨暴騰 游々子
地図の上にこのようなユートピアがあればと思うこの頃です。
(第三十五句) 若者のつましき宴花の下 後藤
物価高が今ほど話題にならなかった数年前上野の山で見た実景です。男女合わせて7、8人の集まりでしたが、なぜかいまだに記憶に残っております。
(挙句) ふらここを漕ぎ再会約し 紀子
楽しい宴が終わると、いつも「じゃあまたね〜」っと言って別れます。
これで終わりではなく、友との絆はずっと続くので。
以下はChatGPTの講評です。
◆ 全体印象
この巻は一言でいえば
「移動の連句」
です。
国見 → 旅 → 鎌倉 → 江戸 → 横浜 → アメリカ → パラグアイ → 四国遍路 → ヒマラヤ → イタリア → シルクロード → 世界史 → 現代 → 花見 → ふらここ
と、地理的にも時間的にも拡張していく構造が見事です。
しかも無秩序ではなく、
- 国見(俯瞰)
- 旅
- 武将
- 川
- 舟
- 都市
- 海外
- 宇宙
- 人類史
- 現代社会
- 花
- ふらここ(揺れ)
という、動きの波がきれいにあります。
四十一巻として非常に成熟しています。
◆ 前半(発句〜第十句)
◎ 発句
初がらす微動だにせぬ国見かな
非常に良い発句です。
- 初がらす(動くもの)
- 微動だにせぬ(静)
- 国見(大きな視座)
鴉が動かない、という逆説が効いています。
建国記念日との思想的連想もありますが、
句自体は観念に堕ちていません。
◎ 脇句
茜の空に冴ゆる鳴き声
発句の静を音で開く良い脇。
冴ゆる、が冬の冷気を保ちます。
◎ 三〜五句
旅の宿 → 鎌倉 → 馬入川 → 実朝
この流れは滑らか。
特に
馬入川の舟にて詠むる夕月夜
は歴史的深みが出ました。
脇から武将へ行く自然な流れです。
◆ 中盤(第七句〜第十六句)
ここから一気に現代性と都市性が入ります。
白川郷 → シャガール → 吉原 → 野崎詣り → 天守閣と高層ビル → 金魚 → 月島 → 横浜 → 異国船 → パラグアイ
大きなジャンプが連続しますが、
「移動」という一本の筋があるため破綻しません。
特に
天守閣高層ビルの下に見て
歴史と現代の対比がうまい。
◆ 菜の花忌からの展開(第十七句以降)
ここがこの巻の核です。
空海 → お遍路 → 島灯 → 修行路 → ヒマラヤ → 吉永小百合 → ジェルソミーナ → ピアノ → 声明
宗教・修行・音楽へと連なる流れは非常に美しい。
特に
凍道にジェルソミーナの歌流る
秀句です。
凍道という季と、
映画「道」の音楽が重なり、
しかも寒が利いている。
◆ 人類史への飛躍(第二十六句以降)
アダムとイヴ → ホモサピエンス → 洞窟壁画 → シルクロード → マルコポーロ
ここは大胆ですが、やや観念寄り。
連句としては成立していますが、
若干説明臭が出かかる危険地帯です。
ただ、その後に
青春の切符乗り継ぐ鰯雲
で一気に季と軽みを回復。
ここは非常にうまい戻しです。
◆ 終盤(第三十二句以降)
星野リゾート → 地図 → 吉里吉里国 → 花の下 → ふらここ
ユートピア → 若者 → 花見 → ふらここ
きれいな着地です。
挙句
ふらここを漕ぎ再会約し
非常に良い。
- ふらここ=揺れ
- 終わりではなく再会
- 巻全体の「移動」と響き合う
余韻が柔らかい。
◆ 技術的講評
1. 飛躍
大胆だが破綻していない。
ただし第二十六〜二十八句あたりはやや理知的。
2. 季の扱い
季は大きく崩れていない。
ただし春・秋がやや重なる部分あり。
3. 説明
自句自解は良いが、
本句自体はやや説明的になる箇所がある。
特に世界史ブロック。
4. 音楽の連鎖
ジェルソミーナ → ピアノ → 声明
この三句は美しい連鎖。
◆ 総合評価
この巻は
「俯瞰から始まり、人類史を経て、個人の再会に着地する巻」
構造的完成度は高い。
四十一巻として、円熟の域に入っています。
◆ もし一点だけ改善を挙げるなら
第二十六句
始まりはアダムとイヴの罪
ここは強いですが、
やや観念が前に出すぎ。
例えば少しぼかすとより連句的になります。
例:
- 林檎噛むアダムとイヴの始まり
- 禁断の実より広がる世の流れ
など。
◆ 最後に
この巻は、
- 国見(俯瞰)
- 移動
- 人類史
- 宇宙
- 現代
- 若者
- 再会
と、非常にスケールの大きな構成でした。
しかも最後はふらここ。
揺れのイメージで終わる。
見事です。

