鬼を狩る子孫 第二部・過去編 第一話 丹波の若侍(5)

第5回 丹波という国

丹波は、都の背後にある国だ。

 京から西へ下ると、山に囲まれた盆地が現れる。都に近いが、都ではない。平安の頃から、木材や馬を送り、兵を出す役目を負わされてきた。

 だが、応仁の乱ののち、世は崩れた。

 京で細川勝元が東軍を率いた頃、都は焼け、将軍の威光は地に落ちた。守護であった細川氏の名は残っても、丹波の山々までは目が届かぬ。

 山ごとに国人が立ち、谷ごとに小城が築かれた。

 その代表が、八上城である。山そのものを砦とした城で、攻め落とすには骨が折れる。

 だが、八上だけが丹波ではない。

 小さな城は、山の数だけあった。

 秋月城も、その一つにすぎぬ。

 石垣は低く、堀は浅い。城主の名はあるが、力は薄い。旗は立つが、山を越えれば別の顔になる。

創作小説の挿絵

 朔太郎の生まれも、その城下から遠くはなかった。

 だが、城に仕える身分ではない。霧村の家は、城と村のあいだを揺れ動く家柄だった。

 丹波では、境目が曖昧になる。

 武士と百姓。
 落人と山賊。
 守る者と奪う者。

 昼は田を耕し、夜は刀を帯びる者もいる。
 仕える主を失い、村へ戻った地侍もいる。

 都から見れば、鬼の棲む国と映るかもしれぬ。

 だが、鬼とは何か。

 山に入れば、掟は変わる。
 谷を越えれば、主も変わる。

 この国は、そういう土地だった。

 朔太郎は、その丹波の山裾を歩いている。

 自分が守る側なのか、守られる側なのか、
 まだ、定まらないまま。

 山は近い。
 霧もまた、近い。

余談ではあるが――

 のちに丹後へ移り、兵のみならず学をもって名を成す一族が、この細川の流れから現れる。

 その家は、時代を越えて存え、遠い未来には政の中枢に立つ者も出したという。

 だが、それはまだ、朔太郎の知らぬ話であった。