鬼を狩る子孫 第二部・過去編 第四章 伊賀(1)

第一回 山に囲まれた国

伊賀は、山に囲まれた国である。

外から来る者にとっては、まずそれが印象として残る。
道は細く、谷は深く、ひとつ山を越えれば、もう別の村になる。

京から南へ下り、さらに東へ折れると、やがて道は狭くなる。
人の往来は減り、馬も歩みを緩める。

その先に、伊賀がある。

この国には、大きな城はない。
高くそびえる天守も、広く人を集める城下もない。

その代わりに、小さな集落が点在している。

谷ごとに村があり、
村ごとに田畑があり、
それぞれが、ひとつの世界を形づくっている。

誰か一人が支配している様子はない。

それでも秩序はある。

それが、この国の不思議なところだった。

創作小説の挿絵

応仁の乱が終わってから、
世の中は大きく変わった。

都では、将軍の力が弱まり、
守護と呼ばれる者たちも、思うように国を治められなくなった。

だが伊賀では、その影響は少し違う形で現れた。

強い者が出て支配するのではなく、
地元の者たちが話し合い、
互いに牽制し合いながら、
国を保っている。

表には出ないが、
そこには決まりがあり、
それを破る者は、居場所を失う。

それが、伊賀のやり方であった。

さらに遡れば、この地は古くから「通り道」であった。

はるか昔、壬申の乱の折、
壬申の乱において、
大海人皇子が吉野を発ち、東へと向かったとき――

その道は、伊賀を通っている。

山を越え、谷を抜け、
追手を避けながら進むには、
この地は都合がよかった。

道は見えにくく、
人の目も届きにくい。

だが逆に言えば、
この地にいる者たちは、
人の気配に敏い。

外から来る者を見逃さない。

その気配は、今も変わらない。

伊賀は、開かれた国ではない。

だが閉じてもいない。

必要なものは通す。
不要なものは、通さない。

その見極めが、
この国を形づくっている。

山の上には、朝の霧がかかっていた。

それはゆっくりと谷へ降りていき、
村と村の境を曖昧にする。

どこからがこちらで、どこからが向こうか。

はっきりとは分からなくなる。

伊賀という国は、
もともと、そういう場所であった。