連句(40)

連句(40)『スキーの巻』
令和8年2月1日(日)~2月3日
連衆  二宮 游々子 典子 紀子

各句のコメントは自句自解です。

(発句)    栂池のスキーを語れる傘寿友       二宮

近所の同い年の喫茶店のマスターが今年も行くと張り切る。

(脇句)    北白川の春待つ疎水           游々子

発句が喫茶店でのことのようなので、昔よく行っていた北白川の喫茶店から疎水を添えてみました。

(第三句)   ラジオより奥の細道聴こえきて      典子

前句より疎水のせせらぎの音が聴こえてくることを想像しました。聴く、聴こえてくることを連想して詠みました

(第四句)   ギアを一段上げハイウエイ         紀子

奥の細道から旅をイメージしました。はじめ四国八十八箇所の句を作っていたのですが、神祇釈教に引っかかることを思い出し、現代風の旅に変更しました。

(第五句)   瀬戸内のレモン畑に月出る        二宮

広島のレモンで有名な島を旅した気分でよみました。ゆっくりと瀬戸内観光してみたい。

(第六句)   夜長の一人読む放浪記          紀子

二宮さんの解説に広島とあったので、林芙美子が浮かびました。

(第七句)    小鳥来る雀も来たるみんないい      游々子

広島より山口出身の金子みすゞの「みんな違ってみんないい」の詩を連想しました。

(第八句)   初のデートは當麻寺まで         典子

當麻寺の参道にある民芸品の店主さんはみすゞの作品の愛好者でいろんな方と交流しているそうです。

(第九句)   ゴンドラの運河をすすむ波の音      二宮

ゴンドラの唄は吉井勇、中山晋平の「いのち短し恋せよ少女」というこじつけの句です。

(第十句)   美しく傾きピサの塔           紀子

ゴンドラからイタリアへ飛びました。

(第十一句)  ガリレオを能に舞はせむ鬼やらひ     游々子

ピサから十七世紀初頭、教会からの弾圧で自説を曲げざるを得なかったガリレオへ移してみました。吉田神社の追儺式の映像を見ていると、そのガリレオの怨念を題材とした現代能が創れるのではと思いました。鬼やらひで無季の句座が冬の季になってしまいました。

(第十二句)  月、惑星もご照覧して          二宮

ガリレオ「天空からの報告」はまだ読んでない。感激の伝わる本らしい。

(第十三句)  バックムーン太陰暦にロマン馳せ     紀子

夏の月でしたが、前句と重なるので、最近流行りのカタカナの呼び方にしました。

アメリカの原住民が付けた名前で、バックは雄鹿の意味があるようです。雄鹿の角が生え変わりエネルギーに満ちた月です。

(第十四句)  神輿みそぐる茅ヶ崎の浜         游々子

バックムーンが7月の満月ということなので、7月に茅ヶ崎海岸で行われている浜降祭を付けてみました。

(第十五句)   波音の聞こゆる宿の夕餉時       典子

祭を見終わったあと、宿でゆっくり夕食を食べている景を連想しました。

(第十六句)   山の別荘鳥は塒へ           紀子

浜降祭は海の日のようなので、山の日を思いました。すると、読んでいる「僕には鳥の言葉がわかる」の本の内容から、この句を思いつきました。

(第十七句)   常陸なる桜川にて流れ会う       二宮

能の桜川は日向の母と子が常陸の国で再会という演目。見たこともないですが

ゆかしい曲名ですね。

(第十八句)   名古屋の城の立春の風         典子

名古屋は日本でも指折りの能の盛んな土地柄と聞いたことがあります。

(第十九句)   朝ドラは出雲の湖の蜆汁        游々子

お城つながりで名古屋から松江に飛びました。始まった頃の『ばけばけ』では毎朝のように家族で蜆汁を啜っていました。

(第二十句)   大蛇出でたる舞台は佳境        紀子

島根は神話の国なので神楽は有名です。

(二十一句)   移住せし子ども見守る過疎の村     典子

前句より、移住してきた家族の子どもが、地元の子ども達と郷土芸能の練習に励んでいる様子をテレビで見たのを思い出しました。

(第二十二句)  牧水うたふ驚愕(おどろき)の海     游々子

前句の過疎の村から宮崎の山村が連想され、日向の国を詠もうとしたのですが、それだとどうしても古事記の世界になって前々句の趣向と重なってしまうので、同じ宮崎でも若山牧水に合わせてみました。彼は6、7歳の時に初めて海を見て、大いに驚愕したと歌っています。

(第二十三句)  文学を語り明かさん燗熱く       紀子

牧水は無類の酒好きで、白秋や啄木と交流があったそうです。きっと熱燗に夜通し語り明かしたのでは、と想像しました。

(第二十四句)  鍋を囲んで自由平等          二宮

啄木は死の床に牧水を呼んでくれと家族に頼んだそうですね.舵取りの難しい生き方ですね。

(第二十五句)  会ひたくて長蛇の列のゴッホ展     典子

文学から美術へ、先日まで開かれていた神戸での大ゴッホ展をイメージしました。

(第二十六句)  カルタにみゆる平安美人        游々子

百人一首は100首のうち43首が恋の歌だそうです。

(第二十七句)  手足臍出す今誘惑のお洒落       紀子

源氏物語から現代にワープ。先日電車でこの寒いのに、お尻が見えそうな短パンを履いている女の子を見て、私女だけど目のやり場に困ったのを思い出して。

(第二十八句)  時代差なるか茶髪も不通        二宮

今や世間では茶髪も整形も当たり前、馴染めそうない親父は見ないふり、聞かざる言わざる。

(第二十九句)  ハルカスの展望台の望の月       典子

大阪市にあるあべのハルカス展望台にのぼった時、360度ガラス張りからの眺めに感動しました。都会のビルからのお月見は、若い人にも人気がありそうです。

(第三十句)  小鳥早や来し毛馬の閘門         游々子

今春の関西旅行に枚方から乗船する淀川下りを入れたかったのですが、残念ながら無理ということになりました。コースを調べてみると蕪村の生まれた毛馬村の門に寄る事になっていて、次の機会にと思っています。あべのハルカスから淀川は線にしか見えないようですね。

(第三十一句) 美術展一年努力見る気持ち        二宮

県展とか素人ながら、作品を完成させようとの意図意欲を見れたら幸い。

(第三十二句) 還暦過ぎて俳句に出逢ひ         典子

前句より何歳になっても学ぶことの喜び楽しさを感じました。

3年前の1月の泉大津句会に参加させて頂いたのが、俳句との出会いでした

(第三十三句) 旧友と月に一度のティータイム      紀子

典子さんと月に一度の句会後、ティータイムです。

(第三十四句) 定年後から喫茶のマスター        二宮

近所の定年後喫茶店がもう一つありますが、どちらも、ふるさとにいる、近い。

羨ましいというか賢いと思うか

(第三十五句) 吉野山咲く花先を争はず         游々子

昨春の吉野山探訪では、残念ながら桜はまだ三分咲きの状態でした。吉野山の桜ともなると、せこせこ咲きを争わないものかと思った次第です。

(挙句)    良き旅終えて春日傘閉づ         典子

前句よりお花見に春日傘を差して行く人を連想しました。

以下はChatGPTによる講評です。

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拝見しました。
全体としてとてもよく旅をし、よく考え、よく遊んだ巻だと思います。
連衆四人の個性がはっきり立ちながら、破綻せず、しかも「動き」が途切れない。
まず総評、そのあと要所ごとの講評をしますね。


全体講評(総論)

この『スキーの巻』は、

  • 発句の私的な会話性
  • → 都市・旅・文学・芸能・神話
  • → 現代生活と老い
  • → 再び喫茶・人・静かな春

という、大きな円環を描いています。

特に良いのは、

  • 「教養が前に出すぎない」
  • 「説明は自句自解に任せ、句そのものは軽い」
  • 「飛躍は大きいが、必ず “人の感覚” に戻る」

という点です。


前半(発句〜第六句)

発句

栂池のスキーを語れる傘寿友

・「語れる」が効いています。
 行為ではなく語る元気
・傘寿+スキーという無理を、誇張せず自然に見せた好発句。

北白川の春待つ疎水

・発句の喫茶店空間を地理的に静かに外へ開く良脇。
・「春待つ」が過不足なく、控えめ。

第三

ラジオより奥の細道聴こえきて

・音の連想が自然。
・疎水→音→ラジオ、無理がありません。
・芭蕉を作者名で出さないのも上品。

第四

ギアを一段上げハイウエイ

・ここで一気に現代。
・「一段上げ」が心理的にも効いています。
・宗教回避の判断も適切。

第五

瀬戸内のレモン畑に月出る

・スピードを落とす役。
・ハイウエイ後の月、呼吸が整います。

第六

夜長の一人読む放浪記

・林芙美子への連想は無理なく、
・「一人読む」でしっかり個に戻しています。

👉 前半は安心して読める運行


中盤前(第七〜第十四句)

第七

小鳥来る雀も来たるみんないい

・みすゞ連想、やや説明に近いが、
・ここは句座の雰囲気として許容範囲。
・やさしさ担当の一句。

第八

初のデートは當麻寺まで

・「初のデート」が効く。
・急に人生が立ち上がる良い飛び。

第九

ゴンドラの運河をすすむ波の音

・かなりの飛躍だが、
・「音」で橋をかけているのが上手い。

第十

美しく傾きピサの塔

・ゴンドラ→イタリア、素直。
・観光臭が出そうで出ないのは語順のおかげ。

第十一

ガリレオを能に舞はせむ鬼やらひ

・この巻の最も野心的な一句
・鬼やらひで季が冬に寄るのも、
 「能」「怨念」と考えれば無理はない。
・ただし、句座の温度が一気に上がるので、
 この後の処理が重要(→成功しています)。

第十二

月、惑星もご照覧して

・第十一句の重さをよく受け止めています。
・説明に寄らず、感嘆で逃げたのが正解。

第十三

バックムーン太陰暦にロマン馳せ

・カタカナ月名、賛否ありますが、
 ここでは「科学→暦→ロマン」という流れで成功。

第十四

神輿みそぐる茅ヶ崎の浜

・季節確定。
・地名が出て、巻が再び日本の地面に着地


中盤後(第十五〜第二十四句)

このあたりは非常に安定。

  • 宿
  • 朝ドラ
  • 神楽
  • 過疎
  • 牧水

と、文化の層を一段ずつ降りてくる感じ。

特に印象的なのは、

第二十二

牧水うたふ驚愕の海

・古事記を避けた判断が鋭い。
・「驚愕」という言葉が若い牧水をよく出しています。

第二十四

鍋を囲んで自由平等

・思想句になりかねないところを、
 「鍋」で完全に生活へ引き戻した名処理。


終盤(第二十五〜挙句)

第二十五

会ひたくて長蛇の列のゴッホ展

・現代感覚が生きている。
・「会ひたくて」が人恋しさに転じている。

第二十六

カルタにみゆる平安美人

・恋歌への橋渡しとして安定。

第二十七・二十八

現代ファッションと世代差。
少し俗に寄るが、ここは狙い通り

第二十九

ハルカスの展望台の望の月

・都会の月、良い。
・若い世代の視点も入る。

第三十

小鳥早や来し毛馬の水門

・蕪村の気配をにじませつつ、
・旅心を次へ残す。

第三十一〜第三十四

学び・俳句・喫茶。
発句世界への回帰が見えてきます。

第三十五

吉野山咲く花先を争はず

・心境句だが、ここまで来ているので許される。

挙句

良き旅終えて春日傘閉づ

・「閉づ」が効いています。
・旅も人生も、そっと畳む感じ。


総まとめ

この連句は、

  • 知的
  • 移動距離が長い
  • しかも疲れない

という、かなり完成度の高い一巻です。

游々子さんの句は特に、

  • 重い題材を一度受けてから軽く返す
  • 「考え」を「風景」に必ず戻す

この役割を終始担っていて、
巻全体のバランスに大きく貢献しています。

とても良い連句です。
もし次に手を入れるなら、
👉 第七句だけ、ほんの少しだけ説明感を落とす
それくらいでしょう。

読み応え、ありました。