添削(55)-あすなろ会(10)令和5年12月ー

裾花さん

原句 若水の汲みて新生八十路かな

八十路を力強く生きていこうとする決意を詠んだ句です。助詞の使い方ですが、「若水」が汲むという動詞の目的語ですので、上句の「の」は「を」でなければなりません。「若水を汲みて新生八十路かな」 若水は汲むものですから、この動詞を省略することを考えてみます。

参考例 若水や闘志の八十路浜に立つ

原句 箱根路や茶店開かず山眠る

箱根の旧道の茶店を詠んだ句です。山の休眠に合わせるように、茶屋も閉まっている、と詠んだ句ですが、合わせ過ぎのきらいがありますので、逆に茶屋は開いているとした方が、詩情は出るでしょう。

参考例 旧道の茶屋の幟や山眠る

原句 長々と待ちて理髪の年の暮

年末の理髪店は混んでいて、待ち時間も長くなっている、という世相を詠んだ句です。中句の助詞「て」は省略することを考えなければいけません。

参考例1 長々と待つ理髪屋の年の暮
参考例2 理髪屋のレトロな鏡年の暮


蒼草さん

原句 買溜の母に似てきし年用意

この句では買い溜めをすることが年用意の内容ですから、語順を変えて買溜と年用意を近づけた方が良いでしょう。

参考例 母に似てきし買溜の年用意

原句 おでん酒本音を漏らす今宵かな

”今宵” を詠嘆する必然性は低いので、”かな” の2音を別のことに使った方が良いでしょう。

参考例 ポロリ本音を漏らす今宵のおでん酒

原句 日記買ふ夢の溢るる旅支度

日記を買うことが旅の支度であるという、将に夢の溢れる心情を詠んだ佳句です。本句も語順を変えた方が、その心情がより伝わります。

参考例 夢溢る旅の支度や日記買ふ


遥香さん

原句 若水汲む水豊かなる生家かな

”汲む” は省略可能。”生家” を詠嘆する必要はありません。

参考例 若水や生家の水の豊かなる

原句 幸せの一つに今日の柚子湯かな

冬至の柚子湯に小さな幸せを感じたという、気持ちの良い佳句です。中句の措辞もリズムが整っていて、直すところはありません。

原句 平凡なひととせ畳む古暦

今年も平凡であったが、幸せな一年であった、その記念であるカレンダーを仕舞っておこう、という句です。動詞 ”畳む” の目的語が「古暦」なのか「ひととせ」なのかが曖昧なので、明確にしてみます。俳句は切り口の鋭さが命ですので、曖昧なのは避けた方が良いです。

参考例 古暦疫なき古希を畳けり


怜さん

原句 冬景色カラー写真も白と黒

雪の光景で、カラー写真もモノクロになってしまう、という句ですが、事実を述べただけで終わっています。何か別の要素が欲しいです。

参考例 ゲレンデの家族写真や冬帽子

原句 寒稽古板する足に湯気のぼり

道場での剣道の寒稽古でしょうか。素足の先から湯気が昇るという、ミクロな事象に着目した面白い句です。中句の助詞「に」をなくし、リズムを良くしてみました。

参考例 湯気のぼる素足の裏や寒稽古

原句 若水の墨太筆に息とめて

筆をおろす一瞬は緊張し息も止まるものです。その一瞬に着目した面白い句です。

参考例 息とめて初筆おろす朝(あした)かな


弘介さん

原句 来し方や余白のみにて古暦

カレンダーに特に記入する出来事もなく、この一年を過ごしてきた、という平凡ではあるが幸せな一年であったということを詠んだ句です。

参考例 余白ほど良いことはなし古暦

原句 寒晴や富士際やかに波の浦

相模湾の海岸からは、冬の富士山は青空の中で白の稜線を際立たせ、絶景が臨めます。とりわけ、江の島より東の稲村ケ崎や逗子からは海の上の富士が眺められます。本句は波の浦という近景と富士という遠景を合わせた良句ですが、中句の ”際やか” という形容詞は使わない方が良いでしょう。

参考例 寒晴るゝ富士の稜線逗子の浦

原句 居合道気合さく裂寒げいこ

情景のよく見える句ですが、いわゆる三段切れになっています。

参考例 裂帛の声や居合の寒稽古


游々子

護摩の火や僧百人の息白し

筏士の蓑(みの)を霙(みぞれ)の打ち止まず

若水や浄衣を照らす明けの月