添削(54)-あすなろ会(9)令和5年11月ー

裾花さん

原句 袋田の崖を包みし大氷柱

袋田の滝
氷結した袋田の滝

中句の ”包みし” が過去形になっているので、現在形の ”包める” にした方が良いでしょう。袋田の氷瀑の写真をみると、氷はぴったり岩に張り付いているので、参考例では ”氷柱” ではなく ”鎧” にしてみました。

参考例1 袋田の崖を包める大氷柱
参考例2 
神の滝厚き氷をもて鎧ふ

原句 小春日や八十路4人のパトロール

小春日の中、元気な80歳代が、防犯パトロールしている姿が浮かんできます。中句下句の12音が季語「小春日」を引き立てるものになっていて、とても良いと思います。ただ、俳句ではなるたけ算数字やカタカナではなく漢字にした方が良いので、参考例では修正してみました。

参考例 小春日や八十路四人の防犯隊

原句 大蕪刃入れ戸惑う白さかな

白蕪

大蕪(かぶら)の白さが余りに立派なので、包丁で切るのに戸惑いを感じる、という句ですが、俳句では、人間側の感情をそのまま表現するのは避けた方が良いことになっています。蕪の側を擬人化した方が良いでしょう。(作者の感情をそのまま表現しない例として、「朝顔につるべ取られてもらい水」という句があります。これは朝顔の蔓を切るのが ”しのびない” という気持ちを詠んだものですが、感情の言葉を使わずに、”もらい水” と詠んでいます。)

参考例 大蕪刃入れを厭ふ白き肌

蒼草さん

原句 君逝くや青の編み込みセーターと

本句は若くして逝った ”君” を偲んだ句で、作者の手編みのセーターを着たまま逝ったということで、リアリティある愛情表現となっています。君を偲ぶのに、”偲ぶ” のような言葉を一切使わずに表現した素晴らしい一句です。句会で私はこの句を特選で頂きました。

原句 灯火にさざめく声や古都の牡蠣

四条木屋町
四条木屋町

本句は京都の料理屋で牡蠣を食べている場面を詠んだ句ですが、灯火に声を合わせるのではなく、灯りが高瀬川のような浅い川に映っているとし、食べている場所が木屋町であろうかと連想させた方が、より詩情が高まると思います。

参考例 浅川に灯火(ともしび)うつる古都の牡蠣

原句 湯気の立つポトフの底の蕪かな

ポトフ
ポトフ鍋

ポトフはフランスの家庭料理で、フランス語では pot-au-fue と綴り、火(fue)にかけた鍋(pot) という意味です。本句は蕪を季語とした一本仕立ての句です。中句をポトフと蕪で分けた句またがりの作りにするとリズムが良くなります。

参考例 湯気を上ぐポトフ輪切りの蕪(かぶら)かな

遥香さん

原句 七五三玉砂利弾む声弾む

七五三での幸せな光景が伝わってきます。中句下句でリフレインさせていますが、体言止めにしたリフレインの方が響きあるリズムになります。

参考例 七五三弾む玉砂利弾む声

原句 小春日のウインドサーフィン蝶の如

ウインドサーフィン
葉山海岸のウインドサーフィン

逗子か葉山の海岸でしょうか、あの辺りは冬でもウインドサーフィンが多く浮かんでいます。季語が三つ重なっているので、主季語の小春日に絞ってみます。

参考例 沖遠く白帆の駆くる逗子小春

原句 焼牡蠣の匂ひの誘ふ能登の市

能登の朝市
能登の朝市

微妙なところですが、”焼牡蠣” だけで匂いは伝わって来ますので、市には別のことを添えた方が良いと思います。

参考例 能登の朝市焼牡蠣を売る媼

怜さん

原句 雪吊りや朝一番の空を切る

雪吊り
兼六園の雪吊り

本句、当初下句の ”空を切る” を理解できなかったのですが、兼六園では朝一番に雪吊りの天辺から縄を地面に投げていて、その時に鋭い音がするという説明を受けて納得しました。良いところを捉えた佳句です。上句を「雪吊縄」とすると、理解しやすくなります。

参考例 雪吊縄朝一番の空を切る

原句 牡蠣筏再びの海穏やかに

三陸の牡蠣筏
三陸の牡蠣筏

津波で壊滅した三陸の牡蠣養殖の復活を詠んだ句です。中句の ”再びの海” の語順がおかしいので、”海は再び” とします。この牡蠣の養殖では、山に落葉樹を植えて海の水を栄養豊かにしている人が居ます。その方の努力を参考例2としました。

参考例1 牡蠣筏海は再び穏やかに
参考例2 
牡蠣の浦育てる山を守り継ぎ

原句 古セーター潜りてまりとなる子猫

季語「セーター」を強めるために、語順を変えてみます。

参考例 毬となり子猫の潜る古セーター

弘介さん

原句 浜風や肩を寄せ合うペアセーター

海岸で肩を寄せ合っている若いカップルは、寒さをものともしない、という句です。ペアセーターでほのぼのとした感じが出ています。直すことない佳句です。

原句 牡蠣殻と力比べや火の力

焼き牡蠣
焼き牡蠣

殻のついた牡蠣を火であぶっていて、熱くなった殻と火の力と どちらが強いかを詠んだ句です。着想の面白い句です。

参考例 炭の火と我慢を較ぶ牡蠣の殻

原句 冬ざるる信濃路すべて白魔境

雪の露天風呂
雪の露天風呂

信濃路が全て白魔境になることは無いので、場所を特定した方が良いでしょう。

参考例 冬ざるや湯の里すべて白魔境