写真で見るプレバト俳句添削(55)-2023.5.18ー

今週のお題: お子様ランチ

お子様ランチ

森迫永依 溽暑のファミレス机上の通知表

通信簿

アシスタント: 森迫さんは普段から俳句ノートを持参し、思いついたことをメモしているそうです。

森迫さん: 塾帰りに母と一緒にファミレスでお子様ランチを食べているという光景が浮かんだので、そこを詠んだんですけど、通知表なんかが来て、あんまり成績が良くなくてモヤモヤして、母に怒られるのが嫌だなと思っているのを季語に込めました。

梅沢さん:素晴らしい! この子、私がなんと言いました? 俳句の申し子と名前をつけたくらい。この季語を選んだところがもう素晴らしい!
ジュニア: 滅茶苦茶勉強してはるな~と、分かりますね。

夏井さん: この句の評価のポイントは、前半8音後半9音、合わせて17音の破調を選んだ是非です。

浜田さん: 1ランク昇格! 先生から「通知表の中まで見える」

夏井さん: お子様ランチというあの写真が一体どういう場所に置かれているんだろう? あの写真の周りにどういう人がいる? と想像を広げると、これがひとつの作り方の基本ですね。「溽暑」という季語、ここに映像はないが、蒸し蒸しした皮膚感があるという季語なんです。そこからファミレスという「場所」に行きます。ファミレスという名前だけで、どういう感じの人が集まるのか大体想像はつきます。そしてここでカットが切れてファミレスの中のテーブルに、そして通知表、「物」に焦点が当たる、カメラワークが良いということがひとつ。そして最後、通知表で季語の溽暑が効き始める、当然通知表の中身は気持ちの良いものではないに違いないと、溽暑の暑さの中を抜けて、冷房の効いたファミレスに来ているが、心はジュクジュクと嫌な気持ちを持っていると、それだけの内容を破調のリズムで表現をした、内容が調べを決める、それをこの人は数回出ただけで理解しているということです。直しは要りません。

游々子: 夏井さんの論理は、ジュクジュクした気分の句には破調のリズムが似合うということですが、今まで夏井さんが推してきた破調の句には、そうでないものが多々あります。この句にしても、句またがりの五七五にすることは可能です「ファミレスや机上の通知表溽暑」

それから夏井さんの句解釈ではカメラワークがよく出てきますが、この視点は俳句にとって適切ではありません。その理由は、俳句は写真で置き換わるものであってはならず、カメラの動画も同じで、俳句は写真や動画では表現できない奥深さを持つものでなければならないからです。


千原ジュニア 矯正箸はちりめんじゃこを摘まみけり

ちりめんじゃこ

ジュニアは2回連続シュレッダーになっています。

ジュニア: 最近うちの子5歳がちりめんじゃこを摘んでいるんですね。この映像しか出てこなかったんで、一点でバッと行きました。

浜田さん: ボツ! 先生から「本当はもっと嬉しいんでしょ?」

夏井さん: 矯正箸、詩になりにくい硬い言葉ですよね、それを詠み込もうとしていると、その姿勢がとても良いと思いますね。ただ勿体ないのは「摘まみけり」というところで、妙に落ち着いている、そこのところでしょうかね。客観的になり過ぎているような、もう少し素直にかわいく喜んでもいいのかなと。もうひとつ、「摘まみ」と書かなくても摘んでいる映像は表現できるんです。それはなにかというと、「矯正箸の先に」とし、「ちりめんじゃこ笑う」。小さな擬人化をするとかわいくなる、ちりめんじゃこの表情も見えてくる、摘めた子もうれしい。

添削 矯正箸の先にちりめんじゃこ笑う

擬人化を上手に使うとこういうことも出来ます。

ジュニア: 出来ませんて~

游々子: 夏井さんの「摘まむ」という動詞を省略して、別の言葉を持ってくるという指摘は当たっています。その理由は、摘まむというのは箸の基本機能であって、摘まむということを特別に詠みたい場合でない限り、省略したほうが良いのです。更に言えば、箸で摘まむのは箸の先に決まっていますから、「先に」だって省略可能なのです。要はこの句で強調したいのが何かということです。それが ”箸の先” であるなら、夏井さんの添削のようになります。もし ”笑っていること” であれば、「矯正箸ちりめんじゃこの笑いをり」となります。また ”矯正箸” であるとするならば、「矯正の箸やちりめんじゃこ笑う」となります。


梅沢富美男 日の丸とグリーンピースの残る皿

 

日の丸

梅沢さん: お子さんってグリーンピースやピーマンのような青物が好きでないじゃないですか。上手にグリーンピースだけ残す思い出がありまして、詠ませて頂きました。

森迫さん: 梅沢さんが仰ったように、グリーンピース嫌いな子多い、沢山の人が読んだ時に共感できる俳句だなと思いました。

梅沢さん: 森迫さん、おじさまを呼ぶ時には梅沢先生と、

浜田さん: なんでやねん、先生は向こうですよ!

梅沢さん: 私も句集出していますから。

浜田さん: お見事! 先生から「俳人らしい美味しさの伝え方」

夏井さん: お子様ランチの写真はあくまでも発想のきっかけですから、横に置いて詠まないといけないわけですね。「日の丸」と出てきたら、国旗掲揚されたああいう日の丸を思い浮かべる人が多いと思います。そしたらいきなりグリーンピースと小さいものが出てきますね。エッと読み手は思うわけです。続けて「残る皿」、ちょっと待てよ、日の丸は「旗楊枝」だと、ここまで来て分かる訳なんです。一番褒めなくてはいけないのは、日の丸とグリーンピースの二つしか残っていない皿から、お子様が食べてしまった美味しそうなものを、ありありと想像させる力がこの句にはある、直しは要りません。

游々子: この句は確かに上手い。今有るものから、無くなっているものを想像させるという ”奥行き” のある句です。”残る” という動詞ですが、これは自動詞で、日の丸とグリーンピースは、実際は ”残されている” という状態・受け身のものですが、自動詞の主語にすることで、生命感を持ったものに変身していて、句に艶をだすことになっています。佳句です。