写真で見るプレバト俳句添削(54)ー2023.5.4-

今週の出場者は、フルポン村上と梅沢富美男の、永世名人二人だけです。お題は「無人駅」。梅沢さんの句集「一人十色」は早くも2刷になっているそうです。

夏井さん: 私の句集、そんなに売れてない。
梅沢さん: 夏井先生あっての梅沢富美男でございます。
夏井さん: それはよく知っています。

フルポン村上 青き踏む影の少なき無人駅

無人駅

村上さん: 意地悪なお題だしてくるな~と。「無人駅」だけで詩っぽいんです。その詩っぽさに寄りかかると、ダッさとなる!

梅沢さん:「影の少なき無人駅」当たり前だろ。これが永世名人の看板を背負う俳句か!

浜田さん: ボツ! 先生から「あと4音攻めて」

夏井さん: 俳句としては出来ている句ではあります。今回何が難しいかと言えば「無人駅」という言葉は、実は俳句の世界では物凄く使われるんです。この言葉だけで詩になっている空気があるから、しかもちょうど5音なので使いやすいから皆が使うわけですね。ですからその分どうやってオリジナリティを上げていくか、そこが大事なポイントになる訳です。
問題は中七ですね。「影の少なき」の影を、「駅舎の影の分量が少ない」と捉えることもできるし、「人の影も少ない」と2つ込めている訳なんですけど、そこは分かるんですけど、無人駅の範疇を超えていないというか、ここが永世名人としては、あとなんで4音攻めてくれないかという、少ないというのは、それはそうでしょうということですよね。例を一つヒントとして差し上げます。

添削 青き踏む影のみ増ゆる無人駅

人がいないのに影だけが増えて来ている。こうするとこの駅はかっては賑やかだったが、人がいなくなる、この影はひょっとすると亡くなった人の影かも、そんな場所を私は一人、生命感に満ちた春の野を歩いている、ここまで来たら詩の分量増えるでしょ。私はポンチくんにポンチくんらしく覚醒してほしいと強く願っております。

游々子: この添削には問題が二つあります。一つは、上句中句ともに「う」段の動詞で終了しているため、リズムが悪いということです。中句を活かすのであれば、上句を「青踏や」にして「青踏や影のみ増ゆる無人駅」とするのが良いでしょう。もう一つの問題は「影のみ増ゆる」が観念的・抽象的な言葉となっていて、映像を伴っていないことです。無人駅に映像・音と時間を添えてみます。「青き踏む汽笛三時の無人駅」


梅沢富美男  まくなぎのただ中にあり無人駅

まくなぎ

梅沢さん: まくなぎとは、この時期になると虫がいっぱい出てくるじゃないですか。ふっと虫の中に「無人駅」があった。これがお手本だよ。

浜田さん: お見事! 先生から「2音で勝負した」

夏井さん: この句はね、実はね、かなり凡人度合いが大きい言葉の使い方をしているんです。「無人駅」みんなが良く使う、「まくなぎ」に対して私一人が「ただ中にあり」この言い方もよくあるんです。「まくなぎ」は人を取り囲む性質がありますよね。この句の勝負どころは「あり」だけなんです。「おり」にしたら「まくなぎ」は私を取り囲む小さなものになる。「あり」だと「まくなぎ」が取り囲んでいるのは無人駅となり、恐ろしい読み方が出現してくる。本人がそこまで考えて「あり」とした、私は長い付き合いなのでそう信じています。

梅沢さん: 確信持って「あり」にしました。
夏井さん: ひとまず信じよう。

游々子: この句の良さは、自分を取り囲む「まくなぎ」の近景と、「まくなぎ」を通してみる無人駅の遠景とが、まくなぎを媒介として一つに繋がっていることです。近景と遠景を対にすることで、奥行きを持った風景句となります。立派なお手本です。