添削(46)ーあすなろ会(1)令和5年3月ー

A子さん

原句 卒業の慣れぬ袴に躓きて

この句は切れているところが無いため、ひとつながりの文章句になっています。また、袴に慣れていないのは自明であることと、慣れぬー>躓く が原因ー>結果 の関係になっているので、”慣れぬ” とは別の言葉を持ってきた方が良いでしょう。

参考例 卒業す袴の裾に躓きて


原句 ひな祭どの娘も雛に似てをらず

ひな祭と雛が重なっています。季重なりは、許容される場合は多々ありますが、この場合は避けた方が良いでしょう。

参考例 雛に似し別嬪さんの祭かな


原句 春の月行き交ふ芸妓裾の揺れ

舞妓

いわゆる3段切れになっています。語順を替えて解消します。

参考例 裾揺らし行き交ふ芸妓春の月


B子さん

原句 昨日とは違ふさよなら卒業日

いいところを突いた佳句です。”さよなら” の前の8音が、ややインパクトが弱いので、強めた表現にしてみます。

参考例 さよならのさよなら成らぬ卒業日


原句 オペラ果てたゆたふ調べ春の月

コロシウム

季語「春の月」を引き立てる上句中句の揃った佳句です。オペラが終って場外に出た時、オペラの余韻が残る中に春の月が掛かっていた、という句ですが、”果て” が説明的であるので、別の表現にしてみます。写真はローマのコロシアムで、夏の夜には野外でオペラが上演されます。

参考例 春の月調べたゆたふオペラかな


原句 落つれども露地を彩どる紅椿

説明句になっています。紅椿が武家屋敷の川を流れる句にしてみます。

参考例 紅椿流るる武家の屋敷かな


C子さん

原句 落椿昨夜の雨をそっと抱き

中句で使われている助詞 ”を” のために、散文的になっています。助詞はなるだけ使わないようにすると俳句的表現になります。

参考例 落椿そっと抱きしむ昨夜(よべ)の雨


原句 春月や伊吹の尾根に腰掛けて

春月が伊吹山の嶺に接して上がっているということを、”腰掛けて” と擬人化した句ですが、それだけのことを説明した句になっています。

参考句 接線のごとき山稜春の月


原句 卒業のリボンぎゅっとしめ直す

卒業リボン

卒業のリボンを、女学生の髪を結んだリボンとして参考例を添えます。

参考例 矢絣(やがすり)と対のリボンや卒業式