写真で見るプレバト俳句添削(25)ー6月30日(1)ー

今回は、”あの問題児がまさかの特待生!” というキャッチフレーズで、犬山紙子さんが特待生に返り咲く、という回です。彼女は、特待生としての初挑戦となる5月12日の回で、「午後も片乳出したまま窓は初夏」という句で、特待生陥落の憂目に遭っていました。

今回のお題は、”キッチンカー” です。

キッチンカー

原句 梅雨寒しロケの暇(いとま)に鯛の汁  小手伸也 3位 才能あり 70点

あら汁

小手さん: 映画の撮影で、海沿いの地方都市に長期滞在したことがあります。地元のスタッフさんの計らいで毎回キッチンカーを呼んでくれた。それが美味しくて、忙しい合間にホッとしていました。

梅沢さん: この俳句はいいね~ 中七の ”に” を ”の” にしていれば、今日の1位だった。

夏井さん: オッチャン偉い! ”に” だと、ついでに急いで啜りました、となる。この場合は、鯛のお汁を有難くしみじみと啜ったということで、”の” にすると、鯛の汁が感謝の対象となり、全然違ってきます。

游々子: 助詞の ”に” は、この番組で何度も要注意として、指摘されてきました。”の” にすると、俳句的広がりが生じ、概ね上手くいくとしたものです。


原句 焼きそばを啜る孤独な祭り笛  小宮浩信 最下位 凡人68点

祭り

最下位での68点は、過去の最高点だそうです。

小宮さん: 小学生のころ、一人で何かをすることが多かった。

藤モン: ぱっと見て状況が浮かぶから、なかなかいいんじゃないですか。
梅沢さん: 孤独が、焼きそば食べている人なのか、笛なのかが不明。

夏井さん: 今日はオッチャンは基本的には冴えております。でもこれだけのものを、初回で出してくるのは、大したものです。小さなミスは中七の ”な” で、これが誤読を生んでいます。”孤独な” は除きましょう。

添削 焼きそばを啜る祭の夜を一人

こうすると、名詞止めの後に、孤独な感じがぐっと出てきます。

游々子: 梅沢さんの指摘は、ナンセンスで、この場合の孤独は勿論そばを食べている人のもので、それを笛の音がいや増す、というものです。問題となるのは、それを孤独という言葉を使ったことであって、俳句では、別の表現で孤独感を生み出さなければなりません。その点、夏井さんの添削は、”一人” という言葉で孤独感を表現したわけですが、これは直接的置き換えというもので、余韻に欠けています。その前に、”啜る” という動詞は、広辞苑によれば、液状のものを口に少しずつ吸いこむ、となっていて、焼きそばに使うのは不適切です。また、焼きそばは食べるに決まっていますから、食べる類の動詞を使ってはいけません。よって私なら、「祭り笛遠し屋台の中華麺」と致します。


原句 梅雨曇早朝ロケのカップ麺  キスマイ二階堂 2位 才能あり71点

カップ麺

二階堂さん: ロケでは朝食に弁当が用意されるが、冷たいので、熱々のカップ麺を自分で作って、テンションを上げていた。

藤モン: 早朝からカップ麺いけるという若さっていいよね。

夏井さん: 基本型がちゃんと使えてますね。上五の季語のあと、中七で、早朝=時間、ロケ=場所と2つの要素がスルッと入ってますね。ついつい ”に” になってしまうが、”の” でカップ麺がアップされています。上五を ”梅雨冷や” とすると、更にカップ麺との対比が強まります。ちょっとした工夫を覚えると、二階堂くん、いつか特待生になるよ。

游々子: これは季語が動くという例です。季語は動いて当然のものであって、大家の中には、季語はこれでしかない、と断言する人もいますが、俳句はそんなにガチガチに硬いものではありません。


原句 喪服着てメロンソーダの列に居る  犬山紙子 1位 才能あり 75点

喪服

犬山さん: 急に母が死んで、喪服をコンビニで用意するほど、バタバタとした葬式となった。ショッピングセンターのメロンソーダの列に並んで、初めて一人で考えることが出来た。

夏井さん: いい句でしたね。今、話を聞いて、そういう実体験がこういう句になったんだと、そういうリアリティがこの文字面から読者の胸の中に流れ込んで来ましたね。あなたの体験を知らなくても、作者の悲しみのようなものが、大袈裟な言葉を使うよりは、淡々と描いた方が、読み手の胸に静かにしみじみと伝わってくる、そして、暗いイメージと明るいイメージ、色の対比、心情の対比がさりげなく表現出来てますね。これが75点です。ちゃんと修正してきたから、もう一回特待生で頑張りましょう。

游々子: 大関を陥落した翌場所に、10勝をあげて復帰したようなカムバックです。なかなかこういう句は作れません。