俳句講習会句集(1)ー令和4年7月ー
俳ゆう会 兼題:花火、短日、当季雑詠
- 短日やウオッカの酔い醒めやらず 杉山美代子
- 鎮魂の三尺花火天を占め 内海ただし
- ひとりでと花火持つ子や兄となる 川島智子
- 紫陽花の道は濡れをり山の寺 瀧本万忘
- 油紙の香の番傘開く梅雨の宿 浜本文子
- 短夜の夜泣きの吾子の寝息かな 宮坂妙子
- 明易し港湾都市の始発駅 和田しゅう子
- 鎌倉のすべて花火の傘の下 谷本清流
- 歓声に目覚めて車窓花火かな 関口泰夫
- 夏草や生ふに任せし墓一つ 村上芳枝
- 短夜の飛騨の夜明けや鶏の声 塚島豊光
- 短夜や朝刊の今来たる音 野村宝生
- 花火終へほのかに匂ふ背中の子 鈴木登志子
- 噛み合はぬ話ばかりや豆の飯 粕谷説子
- ひねもすの鳥のさえずり明易し 野村みつ子
- 肩車の子の指差せる遠花火 海江田素粒子
- 遠花火千の甍に映りけり 松林游々子
- 沖縄忌ハブの守りぬガマの土 渡辺洋子
- 斜光射す二条や凉し岩雫 鈴木煉石
- 短夜や眠れぬままに友の顔 白柳遠州
- 短夜やまた持ち出して古書開く 時松孝子
- 歩きたい介護ベッドの遠花火 伊藤徳治
- 短夜や東の空の太白星 山口薫
- 濃紫陽花夫のあしたを生きて行く 豊田千恵子
- 岩清水供ふ若者遭難碑 清水呑舟
鑑賞(清水呑舟)
7. 明易や港湾都市の始発駅
横浜、清水、神戸と大きな港が近くにある始発駅だろうか。港湾労働者や都会へ通勤する人が夜の明けない内から駅に集まってくる。港から船の行き交う音や汽笛が鳴り響き、始発駅は早くも活気を呈し始めた。
8. 鎌倉のすべて花火の傘の下
源頼朝が設立した鎌倉幕府は約150年で滅亡したが、様々な栄枯盛衰の歴史を秘めて闇に鎮まり返っている。一発の大花火の傘が開き、その鎌倉の全容を浮かび上がらせた。
14. 噛み合はぬ話ばかりや豆の飯
親子共に年齢を重ね、同居する中で御互いに心を寄せ合い、助け合って生きている。話が噛み合わないこともあるが、気心が知れているので全く気にならない。今日もみんなで食べる豆飯が旨い。
しんじゅ会 兼題:日傘、糸とんぼ、当季雑詠
- すれ違ふ色とりどりの日傘かな 小林梢
- せせらぎの葦でブランコ糸とんぼ 前原好子
- 糸とんぼさざ波残し消えにけり 坂口和代
- 薬師寺の布置に整ふ蓮の花 大野昭彦
- 老いらくの恋やふはりと白日傘 高田かもめ
- とうすみや綴る和本の花結び 伊藤あつ子
- 灯心の翅より透くる水の色 長堀育甫
- ふんはりと牛の背掴む糸とんぼ 三浦博美
- 蜜豆や笑ひころげる少女達 能勢仲子
- 振り向けば手を振る母や白日傘 山田潤子
- 影連れて山門に入る白日傘 西岡青波
- 六義園の水のにほひや糸とんぼ 夏目眞機
- 朝晩に揺らす梅漬け匂ひけり 高橋美代子
- 生きるてふ姉の気息や白日傘 松田ます子
- そよぐ葉に風の妖精糸とんぼ 吉住夕香
- 急流の砕けし岩の糸蜻蛉 松尾みどり
- 里帰り車窓に明けし麦の秋 塚島豊光
- 頭たれ善女となりし茅の輪かな 日高朝代
- 大風を撓みていなす糸とんぼ 内藤和男
- 糸蜻蛉すーいと飛んですいと消え 味村京子
- 糸とんぼ風吊り上げて風の中 秋富ちづ子
- 曇天を突くごと揺れて蓮蕾 桐谷美千代
- 小さき実を放さじと抱く柿若葉 島田美保子
- 石塀の影拾ひ行く白日傘 小林清美
- 遠き日を畳む形見の日傘かな 目黒圭子
- 日傘から手足のぞかせ負んぶの子 渡辺ヤスエ
- 小流れは風棲むところ糸とんぼ 清水呑舟
鑑賞(清水呑舟)
13. 朝晩に揺らす梅漬け匂ひけり
塩漬けも終り、赤紫蘇を仕込んだ頃であろうか。日毎に発酵が進み、厨から良い匂いがしてきた。母が日課にしていたように、梅漬けの壺をゆらして梅の実全体に梅酢を行き渡らせる。母の味に近づくように頑張っているが、まだまだだ。
16. 急流の砕けし岩の糸蜻蛉
梅雨明けの水嵩を増した川。急流が岩に衝突し、白波を立てている。その岩の上に翅を立てた瑠璃色の糸蜻蛉が飛沫を浴びながら止まっている。自然に生きる厳しさと共に、か弱いと思われて来た糸とんぼの逞しさを感じさせる。
17. 里帰り車窓に明けし麦の秋
東京に就職してから早や十年が過ぎた。急用が出来て久し振りに郷里の佐賀に帰ることになった。関門トンネルを抜けて暫くすると、寝台列車「さくら」の車窓に佐賀平野の広大な麦畑が見えてきた。この景色は十年前と変わらない。やっと郷里に帰って来たと実感が湧いてきた。
しおさい会 兼題:鯵、紫陽花、当季雑詠
- 潮に乗り鯵の回遊舞踏会 コハク
- 鯵の目に月の光や竿の先 杉山美代子
- 釣竿にはためく鯵の舞い踊り M
- 鳶の輪が三つはるかや鯵を干す 吉田和正
- この街で鯵で育ちし四姉妹 木村友子
- 水面照り地引網鯵躍り出す 島崎悦子
- 小鯵焼く煙も誘う夕餉酒 川島裕弘
- 鯵すしの残る一貫顔合わせ 板谷英愛
- 網の上に置かれてなほも光る鯵 青木君子
- 鯵さばく子の指先に考を見る 平方順子
- 縁台の花火が照らす子の笑顔 岡山嘉秀
- 紫陽花や猫の覗ける竹の垣 伊藤あつ子
- 鯵売りの月を担げる帰り道 松林游々子
- サーファーにそそり立つ波後ろ富士 溝呂木陽子
- 消せるなら消したき言葉ソーダ水 日高朝代
- 鯵売の買ふ気にさせる土地訛り 西岡青波
- 潮風に鯵寿司開く伊東線 室川敏雄
- 干し鯵の匂ひつられし網代路 渡辺美幸
- 慰めの手紙進まず初蛍 杉山徹
- 夏草や鳥獣躍る高山寺 松岡道代
- 交差点彩の日傘波動かや 福永いく子
- 今朝も又鯵の開きと味噌汁と 塚島豊光
- 彩を汲みこぼす水車や濃紫陽花 清水呑舟
鑑賞(清水呑舟)
2. 鯵の目に月の光や竿の先
水中で回遊している鯵は、月の光を浴びる事はあっても、月を直接見ることは出来ない。釣針に掛かり竿で跳ね上げられた鯵は今、月と一会の対面を果たし、眼に月光を宿した。生命と宇宙の刹那の邂逅を表現した。
11. 縁台の花火が照らす子の笑顔
珍しく家族が揃ったので庭で花火をすることにした。中学生の長男が中心となって、子供四人が賑やかに騒いでいる。子供達の前途には多難な人生が待ち構えているが、逞しく生き抜いて欲しい。そしていつか、この光景を思い出して欲しい。
17. 潮風に鯵寿司開く伊東線
現役の頃、社内旅行は下田方面に行く事が多かった。当時の電車は窓を開けることが出来たので、海からの風を入れながら仲間と酒を飲み、鯵寿司をぱくついたものだ。目的地に着くまでに出来上がった者もいた。停年になって、みんなどうしているだろうか。元気でいるだろうか。
いそしぎ会 兼題:踊子草、蝿帳、当季雑詠
- 雨に舞ひ風に爪弾く踊り子草 大山凡也
- 踊り子草今年また来る旅一座 佐々木紅花
- 信州路古寺に揺れる踊子草 小形好男
- 酎を嘗めするめ烏賊焼く父の背 大野昭彦
- やきいかのそそる匂ひの夜店かな 高橋久子
- 蝿帳も主も昭和雑貨店 井上瑞子
- 蝿帳や偏差値表を傍らに 金井美ゐみ
- 落日の砂上の城や土用波 藤田真知子
- 二番子の塾のアイドル夏つばめ 加藤久枝
- 山路来て踊子草の輪舞曲かな 東花梨
- 踊子草愛らしき名に伊豆想ふ 吉住夕香
- ドガの絵のバレエの群舞踊り花 小倉元子
- 踊子草群舞で見せる化粧坂 萩原照代
- 手水には溢れんばかり濃紫陽花 馬場行男
- 蝿帳に娘の手紙添えてあり 田部久二
- 我を待つ蝿帳の菓子母の留守 杉山若仙
- 踊子草群れて手拍子聞こゆごと 直林久美子
- 踊子草比企一族の屋敷跡 吉武千恵子
- 踊子草風のリズムでゆらゆらと 小林実夫
- 息吹いて躍らせてみる踊子草 小出玲子
- 踊子草秘めたる恋のあるやうな 吉川文代
- 手を引かれ稽古の道や踊子草 坂西光漣
- 踊子草大和の長谷にひっそりと 竹内仁美
- 蝿帳に焼いた干物と古菜漬 塚島豊光
- 蝿帳に大おにぎりと母の文 西岡青波
- 蝿帳や皿にボタ餅母の昼 井澤絵美子
- 腰抜かす何処から来たの大百足 和田行子
- 野ウサギの拍手浴びつつ踊子草 山岸旗江
- 踊子草舞ふや十九の兵の墓 清水吞舟
鑑賞(清水吞舟)
4. 酎を嘗めするめ烏賊焼く父の背
子供五人を育てるために父は、昼夜を分かつ事無く働いた。その父のわずかな楽しみは、スルメを当てに毎晩一合の焼酎を吞むことだった。もっと呑みたかっただろうが、これが精一杯だったのだろう。しかし子供心に父の背が広く逞しく見えたものだ。参考「焼酎を嘗めつ烏賊裂く父の背」
7. 蝿帳や偏差値表を傍らに
帰宅すると蝿帳におやつが入っている。母は子等の将来を思い、働きに出ている。蝿帳の傍に今日貰った偏差値表を置く。少し頑張ったので成績は上がり、志望校に届くところまで来た。母の喜ぶ顔が眼に浮かぶようだ。
25. 蝿帳に大おにぎりと母の文
帰宅すると、蝿帳に海苔の巻いた特大のおにぎりが入っている。野球部の練習で腹ペコなので早速パクつく。傍に添えてある母のメモは、おにぎりの中身は明太子とか、帰りが少し遅くなるとしか書いてないが、いつも子供の事を気遣ってくれて嬉しい。早くレギュラーになって母の喜ぶ顔が見たい。