添削(51)-あすなろ会(6)令和5年8月ー

据花さん

原句 湯舟より右肩越しの十三夜

十三夜は旧暦9月13日で、その月は ”後の月” とも呼ばれています。そして十三夜は ”湯” と相性の良い季語で、その理由はやや涼しくなった季節での一日を了える時の ”湯” に、例えそれが言葉であっても、気持ちがリラックスするからでしょう。原句は「より」と「越し」の繋がりが説明的であるので、上句を「や」で切ってみることにします。

参考例 仕舞湯や右肩越しの十三夜


原句 桐一葉手に終活の始まりぬ

”桐一葉” は中国古典の「桐一葉落ちて天下の秋を知る」を原典とする言葉で、国や個人の衰亡を象徴する季語となっています。したがって ”終活” に繋げたのは理に適っています。また虚子は「桐一葉日当たりながら落にけり」という名句を残しています。”落ちる” という言葉を入れた方が、過去の名句と繋がって格調が高くなると思います。

桐の落葉
桐一葉

参考例 桐一葉落ちて終活始めたり


原句 地球から宇宙へ発信大文字

”地球” と ”宇宙” の二つを重ねるのは着膨れ感がありますので、一つにしてみます。

参考例 地球発鎮魂の火や大文字


蒼草さん

原句 地にしだれ色をこぼして萩の雨

そぼふる雨に濡れる萩を細かく描写した句です。上句と中句の「れ」と「て」が韻となり、更に使われている四つの漢字が全て一字の名詞だけとなっていて、リズムも良く、直す所のない佳句です。


原句 函嶺の鎮もる御霊大文字

函嶺とは箱根山の別称で、京都と同じ8月16日に送り火の行事が行われています。中句が大文字と近く、ベタ感がありますので、自然描写に替えてみます。

箱根大文字
箱根大文字

参考例 函嶺の闇を焦がすや大文字


原句 別れ来し一期一会の後の月

この句から私は樋口一葉の短編小説「十三夜」を連想しました。家庭の事情で裕福な家に嫁いだ女性が、今は車夫になっている幼馴染と会い、別れるというストーリーです。上句中句がたどたどしいので、ストレートに一葉を出してその小説を連想させてみては如何でしょうか。

参考例 一葉の生まれし長屋後の月


遥香さん

原句 母の忌の風に寄り添ふ白桔梗

この句、うまいな~と思いました。それは中句の ”寄り添ふ” の主語が、白桔梗にも作者にも両方に解釈できるからです。季語 ”白桔梗” も母の忌と合っています。ただ上句は「や」で切った方が良いでしょう。

参考例 母の忌や風に寄り添ふ白桔梗


原句 海原の闇深くせり十三夜

季語 ”十三夜” はカラッとした冷気の中に煌々とした月明りを連想させるものです。上句中句にも良く合っていると思います。ただ、中句の「せり」が十三夜を主語とする助動詞になっていて、ここは「深し」と形容詞にして、十三夜と切り離して置いた方が良いでしょう。

参考例 海原の奥闇深し十三夜


原句 江戸文字のうの字の躍る夏のれん

「駒形どぜう」の ”う” でしょうか。

駒形どぜう

ここでも上句は「や」で切った方が良いでしょう。また、「踊る」よりも「跳ねる」の方が雰囲気が出ると思います。

参考例 江戸文字や「う」の字の跳ねる夏のれん


怜さん

原句 絵手紙の朱印くっきり涼新た

中句の ”朱印くっきり” が映像を持たない時候の季語 ”涼新た” に鮮烈な色彩を与えています。直しの要らない秀逸句です。

絵手紙


原句 乱れ萩抱え起こして道探す

道を塞ぐように萩が倒れているという状況での句です。中句下句に動詞が三つあるので、数を減らしてみます。

参考例 道塞ぐ落花姦し(かしまし)乱れ萩


原句 桐一葉雀一匹隠しおり

この句は桐一葉が未だ枝に残っているときのものです。”落ちる” ときの句にした方が動的になるでしょう。

参考例 桐一葉落ちて雀の翔び立てり


弘介さん

原句 向月台砂上へ乱るなごり月

銀閣寺の銀沙灘(ぎんしゃだん)と向月台(こうげつだい)、向月台はこの上に坐って東山に昇る月を待ったものだという説があります。

向月台
向月台

原句はこの向月台になごりの月(十三夜)が乱れるほどに影を落としているという句です。向月台は砂で出来ていますから「砂上」は削った方がよいでしょう。

参考例 名残月の触るるばかりに向月台


原句 主もまた施火と旅立つ五山かな

主(ぬし)はご主人、施火は送り火のこと。上句の「もまた」は他に何かがあるということで、主が、ぼやけるので、主と断定したほうが良いでしょう。

参考例 施火となり主の旅立つ五山かな


原句 埋み門山中深く萩の寺

埋み門とは、城の石垣土塀、築地(ついじ)などの下方を低く切り抜いてつくった小門のことです。そのような門を持った萩の寺が山中深くにあったという句です。「深い山」のことを「深山(みやま)」というので、この短縮形を使います。原句は上句と下句が同等の重さを持っていますので、

参考例 深山来て埋みの門の萩の寺


游々子

白萩の乱るるままに夜の帷

鴨川に灯の映りけり新豆腐

盆過ぎの山の楓の紅ひとつ