写真で見るプレバト俳句添削(41)ー2023冬麗戦(2)ー

8位 キスマイ横尾 初旅は海へ黄色の京急来

イエロトレイン

横尾さんは名人10段。永世名人二人に続いて名人10段も脱落となりました。

横尾さん: 京急線にイエローハッピートレインというのがあるんです。これに乗ったり見たりすると運が上がると言われているんです。初旅で乗れちゃったので、今年一年は運が良いんじゃないかと思っての句だったんですけど。

千賀さん: すごっく良いんじゃないですか。京急ということで神奈川県という具体性がある。

夏井さん: これ前半のフレーズがとても良い。初旅は海へ。海へと言うだけで全部が入っている。で悩ましいのが後半の部分ですね。”黄色の京急来” と淡々と描いているのと、前半の素晴らしさがアンバランスで損をしている。あと一つ、京急の黄色がどれだけラッキーなのか、認知度の問題になってくる。ちょっとだけ小さなヒントを投げてあげることは出来ます。例えばわざと口語で、

添削 京急は黄色だ初旅は海へ

とし、この「は」によって何か意味があるの? と思わせる。知らない人も調べ始めるんじゃないかなと思うんですね。今何か言いましたね?

横尾さん: イエローハッピートレイン

夏井さん: そう、私ならここで「イエローハッピートレイン初旅は海へ」とやったかも知れません。

横尾さん: そんな勇気ないよ、ない! タイトル戦でそんな勇気出せない!

游々子: 古くからの京急電車のシンボルカラーは「赤色」ですが、2014年より幸せをイメージした黄色の車両を走らせるようになりました。こうした背景を読み手が知っているかどうかは、神奈川県外では期待すべきではないでしょう。夏井さんのヒントを与えようとする添削は、句をグロテスクにしただけです。私なら「初旅は海へ京急イエロー車」と致します。


7位 犬山紙子 一月の銀座でおそろいの遅刻

銀座地図

犬山さん: 私がラッキーと思うのは何かと最近考えていたら、遅刻して相手を待たしてしまう、と思った時に、相手も同じだけ遅刻するというメールが来た時ラッキーと。同じ時間感覚の人なんだなと。

志らくさん: わたし? この句より上か下かずっと考えていた! ”おそろいの遅刻” はとってもオシャレ。でも一瞬止まりますよね。何のことか分からない。

夏井さん: テーマ「ラッキー」に対してのこのエピソードは決して悪くない。問題点が2つあります。ひとつはこの「で」です。これが散文的です。なくても意味は伝わります。「おそろいの遅刻」がどういうニュアンスなのか。今語ってもらったように、一緒の時間だけ遅刻する、というようにストレートに意味が伝わらない。例えば恋人同士の2人がお揃いで遅刻した、というケース、ペアルックで遅刻してきた、と。

浜田さん: ”お互い” とか。

夏井さん: あっ今誰か言った。”お互い”とかここに書くだけで伝わるんです。凄いですね、浜田さん!

添削 一月の銀座お互いの遅刻

游々子: 相変わらずの破調での添削、句として成っていません。私なら「一月や互いの遅刻銀座駅」と致します。


6位 千原ジュニア 焼鳥や嗚呼隣席に郷ひろみ

郷ひろみ

ジュニア: これ体験談です。焼鳥おいしいとこですよ。横見たら郷ひろみさん居るんです。店出られた後に挨拶して。そうでないと自分の分もお会計されると悪いと思って。それから店に戻り、暫く後に「お会計」と言ったら、「郷さんから頂いています。」わざわざ店に電話して、俺のに付けといてと。いままでの焼鳥で一番美味しかったです。

夏井さん: これはこれで面白かったですね。楽しませて貰いました。焼鳥(冬の季語)、そのあとに嗚呼がくるから、どうせ酒飲みながら愚痴こぼしていると思ったら「郷ひろみ」。この語順もこれ以上のものないぐらいになっていますよね。一句の世界に奥行きがあるとか、ポエムの部分がどうかと言ったら損はしていることはありますけど、俳句も俳諧というのは、おかしみ・滑稽という意味ですからね。滑稽としてこれは一句ですよね。どこ直すもない。これはこれです。

浜田さん: 直しはないけど6位です。

ジュニア: 郷さん、済みません。

藤モン: 5位やったらな。

游々子: この句は面白いけど、ジュニアの話はもっと面白かったです。言い方を変えれば、この句は、ジュニアの面白い話のほんの一部しか表現できていないということで、韻文17音の俳句より、散文口語の方が面白く表現できる場合があるということです。ここに俳句の限界というか、ターゲットにはできない領域があると言えます。話は跳びますが、最近似たような感想を英語俳句の翻訳で持ちましたので紹介します

Cannons thunder
while summer flourishes
The sun will win

これは日本文化を愛好する元EU大統領が、ウクライナを題材として詠んだ句です。これに星野高士さんは

砲音に太陽真上日の盛り

と訳を付けています。星野さんの翻訳は、伝統的俳句として名訳ではありますが、原句3行目の、” The sun will win “ に対応するものが見当たりません。この3行目は明らかにイソップ寓話「北風と太陽」に由来していて、”太陽が勝つ” と断言しているのです。おそらく伝統的俳句では、これは表現しきれない範疇のものだったのでしょう。

北風と太陽