京大俳句会(6)-第169回(令和5年3月)-

今回の兼題は「野遊、野に遊ぶ」です。

野遊び

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1  祈りの詞知らず見上ぐや花の雨         まめ

何に祈っているのかはわからなくても、「花の雨」に込められている、情感。(吟)

2  ウツ暗いな明るいニュースはジャパンV      嵐麿

この書き出しが面白い。(吟)

3  幼児も歩行器も積み野遊に            幸夫

この歩行器が歩きはじめの幼児のモノか、老人用かリハビリ用か考えこませるところだ。ヒューマンでありまた諧謔もある。幸夫さんならではの一句 (吟)

4  草を摘む万葉人となりて摘む           つよし

センテンス二つで成り立っているところが歯切れがいい。野遊びは、日常のピクニックムードの中で歌われる。でもつよしさんは、二句一章の切れを使って時間を飛び越える。野性味も出てくる。(吟)

5  航跡の白き対馬の卯波かな            游々子

完成度高き美しい風景句。対馬海峡の玄界灘だから、四月の波も白く高く目立つだろう。対馬海峡は朝鮮海峡と接しており、春の暖かさばかりではない、領海の域ならではの厳しさもある。複雑な雰囲気も感じる。(吟)

(評)対馬の海岸に卯浪が寄せている。沖をゆく船の航跡がことのほか白い。対馬は古くから大陸との往来の要衝の島。船の航跡の白さに、かって行き来した船を思ったか。沖の航跡と寄せる卯浪と。大景を詠んで気持ちがよい。 (辻桃子)

6  ここはまだ警報鳴らぬ野に遊ぶ          まめ

7  桜咲く小鳥の野遊び狙う鷹            のんき

ゆったりした句柄だ、まさしくのんきさん。「野遊び」が、山野に住む生類の生の営みとして書かれ。遊びの根源的な姿を見せる。おおらかでゆったりした春の野を別天地のように立体的に描いている。(吟)

     チャットGPTとの共作
8  漱石を想へり犬のふぐり咲く           楽蜂
 In my thoughts today
 Dogwood blooms recall Soseki
 Memories of spring

日本語の俳句を楽蜂が作った。そして「これを3行分かち書きで英語俳句にしてください」とチャットGPTさんにお願いすると、すぐ応答してきたのが下の英語。自分の作品を詳しく自句解説すると面白くなくなるので、漱石の俳句「菫ほどな小さき人に生まれたし」をヒントにするだけにとどめます。それにしても、チャットGPTはすごい。どこから「Memories of spring」とか出てくるのだろう。(楽蜂 自句自解)

「漱石」の「菫ほどな」小さい「オオイヌノフグリ」に置き換えユーモアとパロディ精神もなかなかのものだが、「チャットGPT」さんがそれを、オーソドックスな三行詩に翻訳したところもお見事。この人工頭脳さんは大した情報収集の秀才、それをすばやく分類整理しているのがまたすごい。尤も、人口知能は、人間みたいに「菫」を「イヌフグリ」に置き換えるようなアホな融通性を持っていない。また、漱石みたいに悩みが多すぎて胃潰瘍とか神経衰弱になったりしない。そこで人間の弱みが逆に人間の文学の強みになるのである。つまり俳句を作り味わう優位性はまだまだ人間の側にある。頑張りましょう。この句は、ネット句会だから出される面白さだ。(吟)

9  野遊びに 妹を背負いて 驟雨かな        幸男

兄妹二人で(あるいは思い人や嬬という意味での「妹」)、と野遊びを楽しんでいたら、にわか雨に出会ったんですよね。ほうり出して帰るわけにもゆかずおんぶして・・。男はつらいよ。でもいいとこあります。こんな男性。(吟)

10  野遊びの三代続くホトトギス           楽蜂

11  野遊びのでんぐりがえり空泳ぐ          明美

広い場所で気持ちが解放されて、でんぐり返りなんかすると、自分が廻っているのに空の方がぐるりと回ってくる。一瞬世界からはじき出されたようにも思う。「野に遊ぶ」ことが、異界体験に繋がること、いみじくもとらえた視点だと思いました。のびのびとして面白い。(吟)

12  野遊びへシャトルバス待つ俳と恋         吟

今どきはバスをチャーター、団体で繰り出して郊外吟行に出かける。あるいはそこで「恋」も生まれる。(吟 自句自解)

13  野遊びや古き昭和のなつかしき          嵐麿

14  野に遊ぶ人影小さき岬かな            つよし

15  母連れて遥か万葉の野に遊ぶ           幸男


16  春の野であさき夢みし呆け者            のんき

17  蛇穴をいで脱ぎし衣プロテイン          幸夫

穴を出た蛇の次なる大仕事は、窮屈になった衣ー皮膚からの脱出である。もういらないと捨てていった「蛇の衣」は化学者の目から見たら「タンパク質」の結合なのである。碩学土井幸夫さんのように、こういう専門領域の言葉をもってシャレを生かせるところが、いい。今の「京大俳句ーBlog自由船」のおもしろさのひとつ。。(吟)

18  屋根の上の小鳥8羽のコーラス部         明美

子供の俳句のようだが意外とこのように素直な描写は難しい。ただし「8」は「八」にした方がよい。俳句では原則、漢数字を使います。(楽蜂)

19  四時限の休講京の野に遊ぶ            游々子

午後最後の授業四時限の休講は確かにうれしかった。そんなに遠くには行けなかったけれど、嵯峨野とか岩倉あたりで野遊びを楽しめた。学生時代のなつかしい一幕である。(楽蜂)

20  良書あらば南海トラフと心中す          吟


この作者にしては珍しく無季句。雰囲気としては秋。ブーブーと鳴るスマホの退避警報も無視して読み耽るほどの良書に出会いたいものである。(楽蜂)

南海トラフへの不安はあるが日々の習慣はかんたんには改められない。良書出でよ、それのみです。★注。私は実は無季俳句を作りたい。しかし、季物をもって内面的なことを象徴する有季の句も興味深い。どちらもこの定型詩の幅を広げるための試行の表れです。それで、季語を絶対的理念だと思っている人はどういう姿勢でこれを用いるのかと、それにも関心が向くのです。(吟 自句自解)

21  野遊び夜遊び男はつらいよ寅           武史

この題が「夜遊び」に直結するところがさすが武史さん。「男はつらいよ」→「「寅」へと自動的に連想する。いみじくも、渥美清さんの俳号は「風天」。今回のお題に帰ってくる、詩人でもある俳句人武史さんのこの俳味に脱帽。(吟)

22  少年前期きみはかすかな安息香酸         武史