写真で見るプレバト俳句添削(50)-2023春光戦決勝(1)-

今回決勝に進んだのは、次の10人です。

梅沢富美男(永世名人)
フルポン村上(永世名人)
フジモン(永世名人)
千原ジュニア(永世名人)
キスマイ横尾(名人10段)
皆藤愛子(名人4段)
立川志らく(名人6段)
勝村政信(特待生5級)
春風亭昇吉(特待生4級)
森迫永依(特待生4級)

お題は「給与明細」です。

給与明細

2位 皆藤愛子 ギャラ明細は二行療養の春

病室

皆藤さん: 数か月お休み頂いていた時に、事務所から届いたギャラ明細が衝撃的だったので、再放送しかなくてそれを句にしました。

村上さん: ギャラということによって、何となくこの人がしてる仕事が見えてくる。2位だよな上手いな。

梅沢さん: これは上手いですよ。春というのは明るい春も暗い春もあるんです、それを上手に表現している。二行と言ったところがたまらない。

夏井さん: 今の時代を詠んだ句なのかなと受け止めましたね、細部が上手なんですね。ギャラということで芸能系のお仕事かなと想像はつきますよね。そしてその明細はたった二行であると、この数詞にリアリティがある、そこが良いと思います。季語をもうちょとだけ主役に押し上げるとすれば、逆から行ったほうがよいかも知れないですね。

添削 療養の春やギャラ明細二行

”療養の春” は誰にでも可能性ありますね。ここから ”ギャラ” を出してくるんです。そうすると詳しくなりますね。共感を作っておいて細部に切り込んでいく。「ギャラ明細二行」、この ”は” が無くなるだけで引き締まるでしょ。こうしたら勝負が動いたかも知れない。そして少なくとも上位9人までは詩がありました。

フジモンたち: 最下位は詩がなかった、誰ですか? 何でそんなこと言うの? 先言うのナシや(会場爆笑)

游々子: きつい破調です。それだけで夏井さんのコメントは、重箱の隅をつついている感じがします。”療養の春” を ”や” で切って詠嘆していますが、この ”や” は不要です。”療養の春” だけで切れています。”は” も使っていて何の問題もないです。夏井さんの添削で有意義なのは順序を変えたことで、「療養の春ギャラ明細は二行」で十分です。しかし私なら、575に近づけて「療養すギャラ明細は二行の春」と致します。


8位 春風亭志らく 桜蕊降る陸自の戦車しづか

戦車

志らくさんは、去年の秋のタイトル戦で、もし昇吉より順位が下だったら、君(昇吉)の落語会にタダで出るよ、とカッコつけたのですが、結果は惨敗! 先日その公約どおり、昇吉さんの独演会にノーギャラで出演したそうです。高座の志らく:お後お目当ての昇吉師匠までの繋ぎでございます、とやったところ、普段の落語やるより拍手が大きくて驚いたそうです。高座での昇吉さんは冒頭で、3月の志らくに負ける訳がない、と575で返していました。

浜田さん: 前座に出たんですか?

志らくさん: 取り合えず、はい。今回も昇吉に負けたら、昇吉のことを師匠と呼びます。

浜田さん: (昇吉さんに)志らくはんのこと、どう思うてますか?

昇吉さん: いや、ちょっともう、何で来たんかな、って。

志らくさん: (昇吉は)毎回700句詠んでるんです。それを師匠の昇太さんに言ったら、「バカじゃねえか。もっと落語の稽古をしろ」って。

志らくさん: 給与明細の経験がないんで、給料もらっている人で一番大変なのは誰かと思ったら、自衛隊員ではないかと。明細と自衛隊の迷彩色が重なり、桜が散ってるところに戦車が静かに来た、という映像が浮かんだんです。

昇吉さん: 給与明細と離れているのと、どこでしょうか場所は?

志らくさん: 基地だよ。公道走ることだってある。

昇吉さん: ありますけど、あんまりリアリティ感じない。どこなんだろう。

志らくさん: 自分で調べろ!

夏井さん: テーマとのからみにおいて、多少損してるとは思うんですが、作品の方向性としてはなかなか面白いものを出してきたな、と思っております。”桜蕊降る” という、これ全体が季語となりますね、桜の花びらが散ったあとに、蕊だけが落ちて地面がほんのりと桃色に感じ取れる、美しい優しい季語です。それに対して戦車を取り合わせて、対比も出ました。柔らかさ・硬さ・冷たさ・大小。もったいないのは ”陸自” という言い方で、ここをまとめてしまったのが、損をしたと思います。ここを別の言い方にすると、さっき昇吉さんが突っ込んでらっしゃった部分も、結構うまく解消できるんです。

添削 戦車しづか桜蕊降る駐屯地

こうすると、駐屯地の大きな空間の中に、桜蕊が降ってくる。これ添削の形で出てきたら、上位3句には入れたい可能性を持った句と思います。

志らくさん: 8位でもとっても嬉しいです。

游々子: 戦車は海自や空自が持つはず無いですから、陸自は余計でした。原句が773で17音の破調であるのに対して、添削は675となっていて、リズムの改善は著しいです。しかし、”戦車しづか” は頂けません。私なら「閑かさや桜蕊降る駐屯地」とし、静かなのは戦車ではなく駐屯地全体のものとして、句に広がりを持たせます。


9位 春風亭昇吉 職を辞したる尾崎放哉鳥曇

尾崎放哉

浜田さん: (志らくを指しながら)助かった!
志らくさん: (拍手)
ジュニア: ボロクソ言うてたやん、どこの戦車ですか?って
浜田さん: 志らくはん、メチャ嬉しそうな顔してる!

昇吉さん: 尾崎放哉は何回も職を辞めたり辞めさせられたりしている。人は生きていくために働かなきゃいけないが、仕事やめたい職場合わないことがあるじゃないですか。鳥曇というのは、鳥が列作って飛んでいくことですけど、集団主義に取り残されるみたいな尾崎放哉に重ね合わせて詠んだ句です。

志らくさん: 画が浮かばない(会場爆笑)

梅沢さん: 尾崎放哉と書くんだったら、放哉だけで皆さん分かるんです。そういうところを勉強しないと。さっきから偉そうに師匠に何を言っている!

夏井さん: 作者分かってみると昇吉さん、また知識でねじ込もうとしやがった(会場爆笑)。尾崎放哉は自由律俳人として有名で、教科書にも載っている。「咳をしても一人」これを作った人ですね。発想自体は悪くないんですけどね。私はおっちゃんの提案に賛成いたします。”放哉” で十分通じます。「職を辞したる」だと一回辞めた、定年まで勤めたと思う人がいるかも知れませんが、そうじゃないことだけ匂わしましょうか。

添削 またも職辞せる放哉鳥曇

そうすると放哉らしさというのが少し出て、鳥曇の季語に収斂していくと。人の名前を出すときはもう一工夫あってもいいのかな、そこが勿体なかった。

昇吉さん: 師匠になれるように修行してきます(会場爆笑)

游々子: 昇吉さんのこの句は、明らかに志らくさんの句よりも劣ります。狙ったであろう ”深み” は不発で、比較しやすい ”拡がり” で志らくさんよりワンランク下です。それにしても、志らくさんの隣に昇吉さんを座らせたのは、あまりにも出来過ぎであるように思えます。番組ディレクターの入知恵ではないかと疑ってしまいます。この昇吉さんと志らくさんのバトルは、かっての「笑点」の歌丸さんと円楽さんのバトルのように、番組の ”売り” に仕立て上げられるのではないかと思いました。