写真で見るプレバト俳句添削(47)-2023春光戦予選Aブロックー

お題は卒業。

卒業証書

今回シードされたのは、梅沢、ジュニア、村上、フジモンの4人で、3つ(ABC)の予選グループから6人が選ばれます。各予選グループの1位は自動的に、2位以下の中から上位3人が追加で選ばれる仕組みです。

Aブロックのエントリは、

キスマイ横尾(名人10段)
北山宏光(特待生2級)
松岡充(同上)
春風亭昇吉(特待生4級)
犬山紙子(同上)

です。このブロックでは名人10段の横尾さんが、大本命と目されています。


2位 キスマイ横尾 夕桜学ラン捲り1on1

バスケット

いきなり大本命の横尾さんが2位となってしまいました。

横尾さん: 卒業式が終って、部活が一緒だった友達・後輩と、最期の思い出として1on1バスケをするというイメージ。

フジモン: 横尾くん、スラム・ダンク観たでしょ?(会場爆笑)

梅沢さん: 私はこれを読んだ時に、お題の卒業が浮かんで来ない。

夏井さん: はい、これ、もう読んだ瞬間に中七下五「スラムダンクだよね?」って直ぐに思いましたね。私、スラムダンク全巻持ってる(ウエ~会場驚き)スラムダンクですよ。桜木花道ですよ。問題なんですけど、この字面読んで直ぐに卒業というのがストレートに分かるタイプではないんですけど、これとても良く企んでいるんです。先ず学ランですね。捲ってる訳ですよ。なんでかというと、1on1 が出てくる。練習着でもないし、普段着でもないしどういう場面だろうと。よくよく考えると、ここに夕桜という季語がしっかりある、桜が咲く頃のしかも夕方、学ランをわざわざ捲って 1on1。ということは季節的に考えると卒業の時期じゃないかと。この季語の力を信じると、じわじわと卒業の方向に読みが絞られていく。季語を信じる信じないというのは、将にこういうことなんです。で作者が横尾さんて分かってのことですけど、これは「読みを誘導できる」と確信をもってこの季語を置いたに違いない。力がちゃんとついている証拠だと、今思っています。直しは要りません。

游々子: この句からは、梅沢さんが指摘したように、今の卒業ではなく、スラムダンクの一場面を描写したように読めます。俳句は、「今、ここ、我」を詠むのが原則で、物語のあらすじなどを記述するのは、芸として成り立ちません。私なら季語を夕桜ではなく、ストレートに卒業として「ドリブルす学ラン捲り卒業後」と致します。


3位 犬山紙子 春光やルーズソックスすべて干す

犬山さん: あ~難しい気持ち!
フジモン: ちょっと厳しめやな

ルーズソックス

犬山さん: 私、ルーズソックス世代なんですね。ルーズソックスを幾つかもってたんですけど、あれ、すごく長くて重くて乾かないんですよ、すぐに。だから一気に干せるのって、卒業とか何かのタイミングでないと干せないというのが先ずあったのと、卒業式のキラキラ光る春の光の中干して、それが綺麗だったな~ということを思い出して詠みました。

フジモン: これもあの~お題が「卒業」やなかったら、スゴイ面白い状況を詠んだ句やと思うんですけど、これもあの~卒業と関係がね薄いのかなと思ってしまいますね。

夏井さん: これ、作品だけを読んだときに、ルーズソックスが流行っていた頃の元少女かな、という読みも勿論あるんですが、その時代のお母ちゃんが、「お天気が良いから全部干そうか」というような、そういう読みも否定できないんですよね。どこかに何かやっぱり「卒業」と思わせる小さなフックがあったら良かった。卒業に辿り着けないことはないんですけど、テーマ性で順位的には損をした。でも作品としてはキッチリ出来上がっています。直しは要りません!

游々子: これも横尾さんの句と同様に、季語を卒業とし、「卒業やルーズソックス全て干す」として何が悪いのかと思ってしまいます。そのことよりも、”ルーズソックスをまとめて干した” という内容のものがフジモンがいうように面白いものなのか、私には疑問です。ルーズソックスを句材とするのであれば、私なら「卒業すルーズソックスとも別れ」と詠んでみます。

4位は北山宏光の「上履きの文字も滲むや卒業式」というダサイ句、5位は松岡充の「古巣あり教えの庭よいざさらば」という ”仰げば尊し” を借りてきたような句で、これらの句は省略することにします。


1位 春風亭昇吉 三月の空に託せるものがない 

桜と空

昇吉さん: 人生って卒業の連続ですよね。3月の空っていうのは水色が落ち着いた色で綺麗なんだけど、僕が高校とか中学の時に、未来を託すようなものが掴めないでいたんですよね。だから進学とか就職とかする時に、夢がかなう確たるものを持ってる人ばかりじゃないと思うんですね。その様子を歌いました。

梅沢さん: その通り! 素晴らしい! 私も中学の時にはね、そういう気持ちでしたよ。だって考えられないよ、まだまだまだ。その気持ちがしっかり俳句に表れてます。

フジモン: いやメッチャいいですよ。覚醒しましたよ。詠みたい、これ詠みたかった!

夏井さん: 見た瞬間に「見事だな」と思いましたね。テーマ卒業なんですけど、卒業=めでたい、ではないと。誰もが希望に満ちた卒業を迎えられる訳ではない、これは人生の現実の一つなんですね。明るい三月の空を頭にもってくる訳ですから、このまま明るい方向に行くのかな? と思ったら、後半からぐっと方向が変わる訳ですね。この美しい水色の空に私は託せるものが何一つないんだと、頑張ってきたけど成果が何もなかった、という人かも知れないし、頑張る人を横目にちょっとこう皮肉な目で見ながら、「何一つ自分は真剣にやってこなかった」そういう忸怩たる思いかも知れないですね。この口語の語りがリアリティーとして胸に迫ってくる訳ですよ。この一句を読んで、「あ~私もそうだ・・」と思う今年卒業する人も居るかも知れない、その人達に逆の意味でのエール、「あなた一人じゃないのよ」というエールになるかも知れない。昇吉さん、本当にあなた、理屈こねなくなって巧くなった。(会場爆笑)

昇吉さん: やった~

夏井さん: いや~久し振りに感動しました。

浜田さん: これで予選A終了しましたが、迎え撃つ側はどうですか?

梅沢さん: これを詠めるんだったら、ちょっと強敵かな~

フジモン: 昇吉さんの俳句、メチャクチャ良かったね~ 次、しょうもない俳句詠んでほしい。

游々子: 御三人が言われる通り、素晴らしい句です。私が今まで見てきたプレバト俳句での最高のものではないでしょうか。なぜ素晴らしいかというと、それは写真では絶対に表現出来ない内容のものであるからです。この口語の句、”が” が使われているので、それを無くし文語に変えてみると「三月の空に託せるもののなし」となりますが、夏井さんが言うように口語の原句の方が、身近に迫るものがあり、適切と言えるでしょう。文語での旧カナで表現するのとは別の世界の句であると言えます。