俳句講習会句集(3)-令和4年9月ー

俳ゆう会 兼題:相撲、立秋、当季雑詠

相撲俳句

閉ぢてなほ明日咲く構へ酔芙蓉 杉山美代子

立秋や箱根を映す青き空 内海ただし

海青し家族総出の島相撲 川島智子

竿灯を掲げ夜空を揺らしけり 瀧本万忘

過疎村を白に染めけり蕎麦の花 浜本文子

秋立つやなびく夜空の洗い髪 宮坂妙子

千枚をつなぐ畦道曼殊沙華 和田しゅう子

藍染の初ネクタイや今朝の秋 谷本清流

風音に二度寝の目覚め今朝の秋 関口泰夫

走る施火闇に浮かべる如意が岳 村上芳枝

秋立つや遅蒔き茶豆太りけり 塚島豊光

負けることいとはぬ齢大相撲 野村宝生

朽ちし戸も島の風情や秋立ちぬ 鈴木登志子

病癒え母の鼻唄小鳥来る 粕谷説子

行合の空は風呼び秋に入る 野村みつ子

三男の門にも来てと苧殻焚く 海江田素粒子

ちびっ子に負ける白鵬花相撲 松林游々子

親父と娘のつぶやき癖やとろろ汁 渡辺洋子

妻笑ふ力相撲に前のめり 鈴木煉石

秋立ちて俳句メモ帳ふくれけり 白柳遠州

対の鷺穂波とび立つけさの秋 時松孝子

泥まみれ日々助け合ふ秋出水 伊藤徳治

ガチンコの頭突き音響く大相撲 山口薫

大相撲北斎漫画動きだす 豊田千恵子

草相撲泣いて飛び込む腕かな 細貝介司

もう孫に勝てぬ相撲も算数も 清水呑舟


鑑賞(清水吞舟)

藍染の初ネクタイや今朝の秋 谷本清流

夏の間はカジュアルや半袖シャツで出かける事が多かったが、朝夕が涼しくなると、フォーマルも増えて来た。今日は妻がカルチャー教室で作ってきた藍染のネクタイを初めてつけることにする。秋の装いにぴったりで、皆からよく似合うと褒められた。

負けることいとはぬ齢大相撲 野村宝生

現役の頃は、企業間・企業内のライバルに負けまいと、しゃかりきになって働いた。今はもうそんな気持ちは全くなく、妻と余生を如何に楽しく無事に過ごせる事が出来るかが大切で、後はどうでもよい。力士たちも毎日の勝負は大変だが、無事に引退を迎え、豊かな老後を迎えて欲しい。

三男の門にも来てと苧殻焚く 海江田素粒子

東京に来てもう五十年が過ぎた。三男である自分は、長男が跡を継いだ実家に若い頃は盆供養に帰ったが、コロナ禍のせいもあり、足が遠のいている。そこで今年はこちらでも盆供養の迎え火をやろうと思い、苧殻を購入し準備した。父母には事情を察して頂き、十三日には是非我家の門にも来て欲しい。


いそしぎ会 兼題:芒、爽やか、当季雑詠

薄俳句

尼寺や溢れる萩のこぼれ道 吉武千恵子

爽やかや山路の補修趣味と笑む 大山凡也

爽やかや流鏑馬めがけ弓を射る 高橋久子

愛犬の鼓動を抱き盆の月 佐々木紅花

爽やかや躊躇せず席譲る人 杉山若仙

芒野や名もなき武者の館址 大野昭彦

竹竿に柿と作業衣ゆれにけり 田部久二

馥郁と木箱を抜ける葡萄の香 東花梨

十五夜を愛でつ夕餉の箸進め 坂西光漣

天の川星降る海に浮かぶ島 萩原照代

間合い良き掛け声さやか大向こう 直林久美子

五時半の体内時計今朝の秋 金井美ゐみ

友想ふ尾花揺らして来た風に 小形好男

秘め心ぽんと弾けて桔梗咲く 吉住夕香

大室の山裾銀の芒原 井澤絵美子

流れ来る読経さやかや古都めぐり 小倉元子

古寺の萩叢の白こぼれをり 和田行子

暖簾出てあとをつけ来る弦の月 塚島豊光

爽やかに流るる君の校内放送 加藤久枝

白秋やローマの駅の帽子売 井上瑞子

紺青の空に風描く薄かな 吉川文代

爽やかにこけしの目入れ人筆で 小出玲子

厨の灯消せば白露の静けさよ 馬場行男

八朔を祝ひて皆に笑顔満つ 竹内仁美

民子の愛「竜胆の様な政夫さん」 小林実夫

湖に映ゆさやけき富士や夕茜 藤田真知子

爽やかや手話の少女の躍る指 西岡青波

古寺の土塀に添ひて女郎花 山岸旗江

芒野を褥に阿蘇の寝釈迦岳 清水呑舟


鑑賞 (清水呑舟)

爽やかや山路の補修趣味と笑む 大山凡也

登山道は落石・土砂崩れが頻繁に起る。危険が伴うので、常に補修が求められる。本来は行政の範疇である補修作業を、一般の登山客が黙々と行っている。声を掛けるとただ爽やかに微笑むだけだ。このような人のお陰で登山道は安全に保たれている。本当に有難いことだ。

間合い良き掛声さやか大向こう 直林久美子

歌舞伎場のうしろの見物席を大向こうと呼ぶ。ここには目の肥えた芝居好きが集まり、贔屓役者や見せ場に声援を飛ばす。そのタイミング、歯切れの良い啖呵が芝居を盛り立てるし、役者の励みにもなる。歌舞伎四百年を縁の下で支えてきた立役者でもある。

八朔を祝ひて皆に笑顔満つ 竹内仁美

八朔とは旧八月一日のことで、農家の収穫に先立つお祭で、物を送ったり宴会を催すことがある。宴会の場では、お互いの近況を話し合ったり、子供や嫁の話に大いに盛り上がる。
参考:八朔に弾む嫁取り話かな


しんじゅ会 兼題:弁慶草、秋灯、当季雑詠

弁慶草俳句

活草の強く根を張る土の中 小林梢

風受けて弁慶草の仁王立ち 前原好子

園庭を走る鶏若冲忌 坂口和代

父独り住みたる生家血止め草 大野昭彦

秋灯吾を待ちてゐる窓があり 高田かもめ

病む父の衰えぬ食欲弁慶草 伊藤あつ子

ふと妣の声に振り向く秋灯 長堀育甫

秋灯や運河に落つる滲む色 三浦博美

単線のホーム人影なき秋灯 能勢仲子

月日経し夫婦茶碗や秋灯し 山田潤子

秋灯や追伸にある子の本音 西岡青波

秋の灯や妻籠の宿の京格子 夏目眞機

病院のピアノの夕べ星祭 高橋美代子

ゆっくりと少女の脱皮涼新た 松田ます子

弁慶草その逞しさ分けて欲し 吉住夕香

一人居の父の小窓の秋灯 松尾みどり

秋灯火寄り添ふ二人影一つ 塚島豊光

髪結の亭主の出番踊唄 日高朝代

丸腰の弁慶草に犬の糞 内藤和男

ふっと行末のことなど秋灯火 立脇静江

曇天も生きよと妣の血止草 秋富ちづ子

積年の手紙も捨てよ血止草 桐谷美千代

桃色の簪つけし弁慶草 島田美保子

天保の系譜子宝弁慶草 小林清美

高く咲く紫苑に母の名残りあり 目黒圭子

二学期や黒髪束ね陸上部 渡辺ヤスヱ

秋灯のまだ点く島の診療所 清水吞舟


鑑賞(清水吞舟)

病む父の衰えぬ食欲弁慶草 伊藤あつ子

働き者の父が病に伏せた。家族の為に一生懸命に働いてきた父。病床にあっても食欲は旺盛だ。直ぐに回復してまた畑仕事を始めるだろう。でもあまり無理をしないで欲しい。それが家族みんなの願いだから。

髪結の亭主の出番踊唄 日高朝代

現役時代、夫は企業戦士として身を粉にして働いてきた。家族思いの人でもある。停年になって美容師の妻に生計を助けて貰いながら、趣味のカラオケに嵌まっている。今日は盆踊りだ。自治会の役員として普段鍛えた喉を披露する時が来た。自慢の歌声が村の広場に朗々と響き渡る。

独り居の父の小窓の秋灯 松尾みどり

母が亡くなって父は一人の生活を続けている。今日は久しぶりに父の家を訪ねる。家の中は真っ暗がりだ。でもブザーを押すと家の灯りがついた。と同時に幽かに父の声がした。ああ元気にしているんだ、良かった、まずは一安心だ。


しおさい会 兼題:案山子、月、当季雑詠

案山子俳句

齢積み何やらゆかし薄月夜 吉田和正

黄金の田や丁と案山子知恵比べ 多田明子

見つめられ近づき見れば案山子かな 溝呂木陽子

初秋の空の青さよ限りなし 青木君子

虫送り子供の笑顔赤く染め M

産声を待つ夜は長き月仰ぐ 伊藤美恵子

気楽な身淋しくもあり捨て案山子 平方順子

案山子さん抜けられますかこの道は 木村友子

今朝の秋リード片手に風を切り 島崎悦子

星月夜ほのか漁火島影に 福永いく子

月白し白杖の鈴響く街 杉山美代子

満月を乗せて流るる雲の群 室川俊雄

烏帽子岩富士を抱えて秋澄める 渡辺美幸

月に咆ゆ田んぼアートシンゴジラ 伊藤あつ子

月天心素振る竹刀の切先に 松林游々子

月光や炭鉱翁の屋敷跡 日高朝代

暖簾出て尾行して来る望の月 塚島豊光

夫の椅子かの日のままに居待月 西岡青波

千鳥足俺を見守る月夜かな 板谷英愛

親と子の案山子が守る小さき谷戸 杉山徹

紅さして母を送りし彼岸花 松岡道代

役目終へのっぺらぼうの案山子かな 岡山嘉秀

捨案山子土手を枕に安眠す 清水呑舟


鑑賞 (清水吞舟)

齢積み何やらゆかし薄月夜 吉田和正

現役の頃からの趣味である水彩画を本格的に始めて、教室を持つまでになった。八十路は過ぎたが、心身ともに健康である。最近は俳句も習い始めた。水彩画と違った面白味があり、充実した毎日を過ごす事が出来る。有難いことだ。ほんのりと雲を被った月も、私に微笑んでいるようだ。

気楽な身淋しくもあり捨案山子 平方順子

役目を終えた案山子が畦に捨てられ天を仰いでいる。自分も三人の子育てが終わり、子供たちは巣立って行った。ほっとした半面、子育ての頃の修羅が懐かしく思える。でももう二度とあの頃は帰ってこない。案山子もきっと同じ気持ちではないだろうか。

紅さして母を送りし彼岸花 松岡道代

母は五人の子供を育てるために、農作業や家事に脇目も振らずに働いてきた。お陰で子供たちは無事にそれぞれ独立し、家庭を持つことが出来た。今、棺の中に居る母に、子育ての間はさすことが無かった紅をさしてあげた。今盛りの曼殊沙華の様に、母は輝いて見えた。